2018年1月28日日曜日

連載「日米両国のアカデミアでの就職体験談」(前):アメリカでのPh.D.取得~日本のアカデミアでの就職

今月から「アカデミアでの就職体験談」をテーマに、カガクシャネット・メルマガの新しい連載がはじまります。大学院留学後の進路として多くの方が一度は考えるアカデミアでの就職。今回の連載では、日米両国のアカデミアでの就職経験をもつ石井聡さんに、両国のアカデミア事情について対比的に語って頂きます。

前半の今回は「アメリカでのPh.D.取得~日本のアカデミアでの就職」です。


私はミネソタ大学でPh.D.を取得したのち、日本国内でポスドク、助教を経験したあと、 再びミネソタ大学に戻り、現在はAssistant Professorとして教育・研究に従事しています。アメリカ大学院留学→日本のアカデミア(ポスドク・助教)→アメリカのアカデミアというキャリアパスは、どちらかというと珍しいと思います。なぜ、こういうキャリアパスを経ることになったのか、また日米両国のアカデミアの 職場環境の違いなどについて私見を交えて紹介したいと思います。 

もともと日本のことが好きな私は、ゆくゆくは日本で研究職に就きたいと考えていました。学部卒業後すぐに渡米しましたが、アメリカでの大学院留学は武者修行のような感覚でした。Ph.D.取得にメドがついた頃に、幸運なことに日米両方からポスドクオファーをいただきましたが、研究内容および将来的なことを考え、日本に戻ることにしました。

ポスドクで所属したラボは、私が学部のときに卒論研究を行った研究室でしたが、 私が卒論時にお世話になった教授、准教授は退任・異動されていました。一時帰国の際や国際学会等を利用して、新しく着任された教授と意見交換しておいたのが、 ポスドクオファーにつながったのかもしれません 。ポスドクでは自由に研究をさせていただき、 新しいスキルを身につけることができました。また、国内の学会に参加・発表する機会に恵まれたので、日本の先生方とのネットワークを構築することができました。日本でもアメリカでも、アカデミアに就職する場合は、研究者とのネットワークは大切です。その分野で目立つ存在になることによって、応募書類に目を留めてもらいやすくなりますし、紹介してもらえるチャンスも増えると思います。

ポスドク生活を楽しみつつ、その後の身の振り方を考え始めたとき、北海道大学(北大)大学院工学研究院で環境微生物の助教を募集しているという公募をみつけたので、応募してみることにしました。私はもともと農学系ですが、工学部でも水処理等で環境微生物研究が盛んです。 多くのエキサイティングな 発見が工学系ラボから報告されていたので、私自身も工学系に移動して新たな分野を開拓したいと思いました。公募先の研究室の教授とは、学会でお話したことがありました。特にお声をかけていただいたわけではなく、分野違いの私が応募するとも思っていなかったようですが、無事採用していただけることになりました。

北大で助教として所属した研究室は講座制を取っていて、教授、准教授、助教(私)の3人の教員がいました。 それぞれに専門分野が若干異なるので、各自で自分の研究テーマを持ちつつも共同研究も行うという、講座制のメリットが生かされている研究室だったと思います。講座制での助教の立場は、研究室によって大きく異なると思います。私の場合は幸運なことに、自由に研究できる環境にありました。ときどき教授の研究テーマを手伝うこともありましたが、それにより研究の幅を広げられたので、いまから思えばよかったと思います。札幌も快適な街でとても気に入っていました。

そんな恵まれた環境にいた私ですが、再びアメリカのアカデミアを目指すことになります。 次回はその経緯および日米両国のアカデミアの職場環境の違いの詳細をご紹介します。

後半へ続く

Image courtesy of Sarah Pflug at burst.shopify.com

著者略歴

  石井 聡(いしい さとし)

 2001年3月 東京大学にて学士号を取得。
 2003年8月 Iowa State UniversityにてM.S.取得。 
 2007年8月 University of Minnesota – Twin CitiesにてPh.D.を取得。 
    9月 東京大学大学院農学生命科学研究科にてポスドクおよび特任助教。 
 2011年4月 北海道大学大学院工学研究院にて助教。 
 2015年4月 University of Minnesota – Twin CitiesにてAssistant Professor。

 専門は環境微生物学。微生物を利用した環境浄化研究に従事。

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発行責任者: 武田 祐史
編集責任者: 向日 勇介
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