2016年9月30日金曜日

スタンフォード留学までの道のり(生物情報科学・博士課程)

谷川洋介さんに入学までの体験記を寄稿していただきました。
進路選択の時に考えたことや大学院入試の様子などを詳しくまとめてくださいました。


Stanford Medical Center
Image by Robert Skolmen (Wikipedia user: Bobskol854)


はじめに


みなさま、はじめまして。谷川洋介と申します。日本の学部課程で「生物情報科学」という分野を専攻し、2016年の9月からStanford 大学のBiomedical Informatics 博士課程に進学することになりました。準備にあたっては、留学をされている諸先輩方や、カガクシャ・ネットの体験談に励まされ、また指導教官をはじめとする周囲の方々にご支援を頂きました。どうもありがとうございます。
このたび、学位留学をはじめるまでの体験談を執筆する機会をいただきました。拙い文章ではありますが、ご笑覧頂ければと思います。


進路選択の際に考えたこと


私は、生物情報科学という学問分野を専攻するに至りましたが、これに至るまでには紆余曲折がありました。

小中学生のころから科学が好きでした。自然界に現れる一見すると複雑な現象を、シンプルな言葉で説明することができる、そのような枠組みや、サイエンス・フィクションに現れるような、科学技術がもたらす近未来に、漠然とした憧れがありました。

高校生のころ、物理・化学・生物などの諸科学を比較したときに、生物学の学問領域には分かっていないないことが多くあることに気付きました。多種多様な生物も、DNA・遺伝子という共通の「設計図」により作られていることを知り、大きな衝撃を受けました。設計図が与えられたときに、どのように生命を形作るかは解明されていないと知り、いつか難問を解いてやろうと夢見ることもありました。

大学に入り、生物情報科学という分野に出会いました。生物情報科学は、コンピュータを用いて生命現象の解明を目指す分野です。生物学、コンピュータ科学はもちろんのこと、統計学、数学、疫学や医学とも関連のある分野横断的な学問です。新しい方法論が開発される面白さがある反面、専門に加えて関連分野を広く理解する必要があるという難しさもありますが、自分の性格にあっていると感じています。

生物情報科学を学んでいくうちに面白さに目覚め、将来は研究に携われたら、と考えるようになりました。学際的な分野を専攻するにあたり、日本とは異なる環境で刺激を受けることが将来何かの役に立つであろうと期待し、海外大学院への進学を決心しました。また、学部課程の間に、大学が募集する短期の海外体験プログラムに参加して、異なる環境で学習・研究するという選択肢があることを知ったことも、学位留学を決意する大きな後押しになりました。


米国における生命科学分野の博士課程


米国の生命科学系の博士課程は、最初の一年間が研究室ローテーションとなっている場合が多いです。これは、3ヶ所程度の研究室を約3ヶ月ずつめぐり、お互いにとってベストマッチの研究室を見つけるという仕組みです。このため、大学院入試では、研究室ではなくプログラムに応募することになります(もちろん、配属を希望する研究室のリストを提示することにはなります)。

私にとって、米国大学院のローテーションのシステムは大変魅力的に映りました。生命は、DNAという設計図をもとに、タンパク質などの「部品」を合成します。そして、これらの部品を組み合わせて細胞を、細胞を組み合わせて組織を...やがてこれらはひとつの個体を作り上げます。これらのプロセスに異常があると、生命現象が停止してしまったり、疾患になったりします。階層的な制御構造を支える基本原理を解明するためには、何らかの生命現象に着目してこの仕組みを解明することが近道です。例題として、どのような生命現象に着目するのが良いのかを絞り込むことは、研究経験が浅い私にとって、難しい問題でした。私は、米国大学院の研究室ローテーションを用いて自らの見識を深めた上で、博士論文のテーマを決めたいと考えました。自分が面白いと感じたテーマの研究室が3つ以上あり、分野融合的な教育・研究環境が整った大学という観点で、少し多めの11校に出願しました。





大学院博士課程の入学審査


大学院入試のプロセスは、書類審査と面接審査の二段階でした。化学系などでは、書類審査を中心に合否が決まり、合格者がキャンパスビジットに招待されるという話も聞きますが、生命科学系は面接を経てオファーを出すプログラムが多いようです。お互いに相性を確認した上で進学先を決定することで、入学後のミスマッチを減らすことが出来る良いシステムだと感じました。

願書、推薦状、志望動機、大学入学以降の成績、TOEFL 等語学試験やGRE という共通試験の成績を12月頃の出願締め切りに間に合うように提出し、1月から3月にかけて、インタビューのために8校を訪問しました。

インタビューは、どの大学もおおむね2~4日間の日程で行われます。事前に希望を出した3~7名程度の教授と、30分ずつ一対一の面談を行い、自分のことをアピールすることになります。いくつかのプログラムからの案内に「面接では、いろいろなことが話し合われるが、今までの研究経験を明確に説明できるように準備しておくように」と書かれていたように、研究経験を自分の言葉で説明する能力は多くの大学で求められています。

私の場合は、学部課程での卒業研究のエッセンスを、まずワンセンテンスで述べ、その後相手の質問に答えながら内容を深く掘り下げるという形で詳細を説明できるように準備しました。面接の相手には、希望する指導教官ばかりではなくアドミッション・コミッティーの先生も含まれるため、少しずつ互いの理解を確認しながら対話を重ねることで、第二言語での会話における齟齬が生じないようにすることができると感じました。また、ディスカッションの途中に、先生の部屋にあるホワイトボードに図や式を描きながら説明することで、口頭だけでは説明が難しい概念も、きちんと伝えることが出来たと手応えを感じることが多々ありました。卒業研究のテーマと近い領域で研究をされている先生からは、鋭いフィードバックをいただくこともあり、学会でポスター発表をしているかのような高揚感を感じることもありました。面接の後半では、自分の研究経験が、どのように大学院での学習・研究の基礎となっているのか、自分なりの解釈を述べました。面接の最後のほうに、キャリアデベロップメント上のアドバイスを頂くこともあり、大変有意義な時間となりました。

インタビューには、面接以外の活動も含まれます。これは、出願者の側にも大学の魅力を知ってほしいというアイデアによるものです。教授陣とディナーに出かけたり(これは、面接で会うことができなかった先生と話すチャンスです)、今の大学院生たちとディナーや周辺の観光に出かけたりといった活動が、スケジュールに組み込まれています。今の大学院生、つまり先輩、と話す機会では、なぜその大学を選んだのか、不満に思っていることはないか、希望する研究室に配属することが出来たか、将来のキャリアデザインをどのように考えているかなどなど、率直な疑問をぶつけることができました。ロール・モデルとなる大学院生を見つけることができる良い機会となりました。


最後に


多くの方々から支援をいただき、幸運なことに、海外大学院への進学というチャンスを手にすることができました。学位取得までは5~6年と長い道のりになりますが、焦らずたゆまず頑張っていきたいと思います。


This work is licensed under a Creative Commons Attribution-ShareAlike 4.0 International License. The details of the license is available from the following URL: https://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0/deed.ja

著者略歴:

 谷川洋介 (Yosuke Tanigawa)

 Student
 Biomedical Informatics Ph.D. program,
 School of Medicine
 Stanford University
 https://sites.google.com/site/yktanigawa/

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カガクシャ・ネットワーク http://kagakusha.net/
(上記サイトでバックナンバー閲覧可)
発行責任者: 武田 祐史
編集責任者: 日置 壮一郎
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