2015年8月29日土曜日

カガクシャ・ネットを利用したネットワーキングのススメ

武田祐史

カガクシャ・ネット代表

タフツ大学医療工学科博士課程在学中


留学の実現や海外での就職活動においてコネは重要な役割を果たすと言われています.コネを生かした留学のよくある例としては,日本で所属していた研究室の先生の紹介や共同研究先に留学する,というところでしょうか.私の場合はそのようなツテがなく,現在の研究室に受け入れていただいたきっかけは,現地訪問によって得たコネによるものでした.2010年秋,出願準備中だった私は研究室訪問のためにボストンに渡りましたが,訪問しても大学院生として受け入れることには消極的な返事をもらったり,そもそも訪問に関するメールを送っても返事がもらえなかったりと,けっして成功とは言えない有様でした.

そんなボストン滞在中,MIT日本人会のウェブサイトに当時あった留学相談のメールフォームに苦し紛れに投稿したところ,ある日本人研究者の方(その方とはもちろん面識はない)が快く相談に乗ってくださりました.研究室を見せてくださったあとは近くのスターバックスにて留学中の様子や研究生活についてお話を聞かせてもらいました.たいした質問もできなかった記憶がありますが,その際に「タフツ大学で知り合いがラボを最近立ち上げたんだけど,紹介しようか?」というありがたい申し出をいただきました.その先生のことを渡米前はまったく存じ上げなかったのですが,この紹介を機にコンタクトを取り,研究室訪問・教員との面談が実現しました.そして,その研究室でResearch Assistantとして働くことになり現在に至ります.

このように,何もないところから生まれたコネがきっかけとなって,留学先が決まることになりました.自分の体験談をもとに過度に一般化した話をするのもどうかと思いますが,主体的に動くことは留学経験を成功に近づける秘訣ではないでしょうか.留学相談を受けた際に「コネがないのだけど,どうしたらよいか?」といった質問をよく受けますが,コネがないなら作ればいいじゃないかと思います.コネは留学先や就職先を直接得るためだけではなく,進路に関するアドバイスや情報を得るという観点からも非常に大切です.

ネットワーキングつまり主体的なコネ作りにはカガクシャ・ネットの利用が役に立つはずです.カガクシャ・ネットは,メーリングリストとして始まった当初から,実名でのコミュニケーションを基本としてきました.これは,ディスカッションの質を担保するということと同時に,参加者間のネットワーキングにつなげるねらいがあるからです.メーリングリストからLinkedInへ移行したことで,さらにメンバー間のネットワーキングには利用しやすい環境になったと思います.たとえば,Discussionページに投稿することで,進路や留学準備,キャリアについても自由に相談することができます.

さらにLinkedInグループのメンバーリストを通じて,カガクシャ・ネットメンバーに直接コンタクトをとることも可能です.
以下に方法を解説します.
  1. LinkedInのグループページに行きます.
  2. スクリーン上部にある“member”と表示されている横にある参加人数 (たとえば“203 members”) をクリックします.
  3. メンバー一覧が表示されますので,そこでコンタクトを取りたい人を検索します.大学名,都市名などでも検索可能です.
  4. コンタクトを取りたい方の名前の横に表示されている“send message.”をクリックすることでメッセージを直接送ることができます.

ただし,この方法で1か月に送れるメッセージ数には制限があるそうです.このような形でコンタクトをとることに抵抗を覚える方も少なくないかもしれませんが,アメリカの大学のキャリアサポートセンターなども上述したLinkedInグループを利用したネットワーキングを推奨しています.

また,カガクシャ・ネットはオンライン座談会,留学・キャリア相談会などのイベントを開催しています.これらのオンラインイベントはSkypeなどのツールを利用したface-to-faceに近いディスカッションが可能ですので,参加を通じて,情報収集やネットワークを広げていくことも可能です.

以上のように,カガクシャ・ネットは今後のキャリアを築く助けとなる環境を提供しています.カガクシャ・ネットメンバーひとりひとりが積極的にこれらのリソースを活用することで,自らのキャリアの目標の実現に近づくことでしょう.



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2015年8月23日日曜日

企業と大学での研究開発 第1回:目的と対象・実施期間

過去3回のメルマガでは、企業で求められる3つの能力について、高橋大介さんにご紹介いただきました。今回と次回のメルマガでは、こうした力をどのように生かすことができるのか、実際の研究開発の特徴について小葦泰治さんに詳しく紹介していただきます。



皆様は、留学し学位取得後の進路として、どのような業種・職種に興味をお持ちでしょうか?実に様々なキャリアパスがあると思いますが、今回は、その中でも、大学/企業での研究開発職とはどのようなものなのかについて、その違いも含めて、紹介させていただきたいと思います。
私は、カガクシャ・ネットアドバイザーの小葦泰治と申します。2008年に、Mount Sinai School of Medicine (現在の Icahn School of Medicine at Mount Sinai, http://icahn.mssm.edu/ )にてPh.D.(博士号)を取得後、メリーランド大学薬学部 http://www.pharmacy.umaryland.edu/ Computer-Aided Drug Design(CADD) Centerにてポスドク(博士研究員)として勤務し、現在は日本の製薬会社に勤務しております。これまで大学/企業において、自身が研究開発に従事した経験と同じような経験のある方々から伺った内容をもとに、大学/企業での研究開発の共通点、違いの順で、紹介したいと思います。(本文はあくまでも、個人的な経験・意見に基づくものであり、全ての場合に該当しない可能性もありますので、あらかじめご了承ください。)

大学/企業での研究開発で共通しているもの
  1. サイエンスがベースにある
  2. 最先端の情報にアクセスできる環境がある
  3. 使用している研究機材

研究開発という職種において、大学/企業という組織の違いはあるにせよ、サイエンスがベースにあるという点は共通していると思います。また、最先端の情報にアクセスできる環境があることも共通していると思います。さらに、優劣はあると思いますが、使用している研究機材も、基本的に同じという印象を持っています。それでは、一体何が違うのでしょうか?以下のような違いがあるように思います。 大学と企業それぞれについて、ゴール・やりがい、研究開発対象・実施期間、規模・環境、マネージメントという項目別に、私なりに違いを整理してみました。

大学/企業での研究開発の違い

大学:

 ゴール・やりがい
  1. 論文発表、後進人材の教育・育成がゴール。
  2. 学問の発展を通じて、社会に貢献できる点で、やりがいを感じられる。
 研究開発対象・実施期間
  1. 真実の追究も重要視されるので、純粋な基礎研究の実施も可能。
  2. 個人のアイデアがベースとなり、プロジェクトが立ち上がる。
  3. 実施期間が比較的長い。
 規模・環境
  1. 全体的に見た場合、個人・小規模グループでの取り組みが多い。
  2. 中には、お互いの強み・専門性を生かした共同研究、その発展型の大型プロジェクトもある。
  3. 研究環境は企業と比べて劣るという印象がある。
 マネージメント
  1. 研究メンバーを、ラボ(研究室)ごとにリクルートする必要がある。
  2. 研究資金の獲得、ラボの運営が大変。

企業:
 ゴール・やりがい
  1. 製品開発がゴール。製品開発につながらない研究は評価されにくい。
  2. 論文はあまり出せない。
  3. 発明を伴う特許の出願が、高く評価される。
  4. 世の中に製品として出すことを意識して研究開発を進めるので、社会とのつながり、やりがいを感じることができる。
 研究開発対象・実施期間
  1. 将来的に何の役に立つのか研究開始時には明確でない、ピュアな基礎研究に取り組むのは難しい。
  2. 会社の戦略・方針に沿う形で、プロジェクトが立ち上がる。
  3. 他社との競争の意識が高い。他社製品との差別化、自社製品の優位性創出、独自性・新規性を意識し、研究開発を進める。(チャレンジ精神)
  4. 社外の動向により、プロジェクトが急に中止になることもある。
 規模・環境 
  1. 個人で研究の全てを行うことはほぼ無く、バックグランドの異なるメンバーでチームを作り、取り組むことがほとんど。
  2. 専門性を持ち寄りプロジェクトを進めるため、専門外のメンバーにもわかりやすい説明・コミュニケーション能力が求められる。
  3. プロジェクトにより、求められる貢献(質・量)が変わる。(柔軟な対応能力)
  4. かなり恵まれた研究環境が提供される。
  5. 実力派の教授や先生との共同研究機会も多い。
 マネージメント
  1. 人事部・人事関係者が、必要な人材をリクルートし、必要な部署に配置する。
  2. 研究をサポートして下さるスタッフのレベルが高い。
  3. お金で時間を買うという選択肢 を 持っている印象がある。
  4. 機密事項に関する情報管理を徹底している。
  5. 成果の社外発表に制限がある。
  6. 研究開発に携われる期間は、人様々。

それでは、各項目を比較しながら、見ていきたいと思います。

[ ゴール・やりがいの違い ]

大学と企業の研究開発で最も異なっているのは、そのゴールであるように思います。大学の場合は、学問の発展を通じて社会に貢献するという意識が強いため、論文発表がゴールの一つと位置づけられているように思います。また、後進人材の教育・育成も重要なゴールであるように感じております。そして、それらを達成することで、やりがいを感じられるのではないかと思います。

一方、企業の場合は、企業活動を通じた社会貢献を主眼におきながら、新製品を開発し、市場に投入し、利益を確保し、更なる新製品を研究開発するというサイクルを回す必要があります。そのため、企業の研究開発では、製品開発がゴールとして位置づけられていると思います。これにより、論文発表できる機会は限られるのですが、発明の特許化が可能であり、研究開発成果の重要な評価対象 となります。また、世の中のニーズに応えたり、社会的な課題・問題解決を目指して新製品の開発を行うため、社会とのつながりや、やりがいを感じることができると思います。

このように、大学と企業では、研究開発におけるゴールが異なるために、そこへ至る取り組み方が異なるという印象を持っています。

[ 研究開発対象・実施期間の違い ]

大学の場合、学問の発展につながるような真実の追求は、研究を進める上で非常に重要な要素となるため、純粋な基礎研究も実施しやすいという印象があります。また、個々の研究者の興味の対象やアイデアを基に研究プロジェクトが立ち上がり、実施期間が比較的長い点も特徴ではないでしょうか。 一方、企業の場合は、製品開発につながるような研究を行う必要があります。そのため、将来的に何の役に立つか明確でない、すなわち出口が明確ではない研究は、開始時に上層部からの納得を得るのが容易ではないため、ピュアな基礎研究に取り組むのは難しいという印象を持っています。

また、企業ではあらかじめ策定した製品開発の方針や戦略に基づいて研究開発を行うため、自社の方針や戦略に沿ったプロジェクトが立ち上がる場合が多いと思います。研究開発対象の選定においても、常に他社との競争を意識する必要があります。そのため、対象が同じ・類似の場合は、異なる手法を用いることで、他社製品との差別化を図ったり、自社製品の優位性を創出したりします。その他、異なる対象に取り組む等、独自性や新規性を意識して、研究開発を進めることが多い印象があります。この過程には、幾多の困難があることが多く、困難克服に向け、相当なチャレンジ精神が求められます。

研究開発の実施期間に関しては、社外の動向に大きく左右されます。タイムリーに製品化して市場投入が難しい場合や、ビジネスとして成立する見込みが立たない場合は、プロジェクトの急な中止もありえます。一方で、自社の強みが生かせて他社と競争になりにくいプロジェクトは、じっくり時間をかけて取り組むこともあります。このため、実施期間はプロジェクトごとに大きく異なるという印象を持っています。

次回に続く)


著者略歴:

小葦泰治 (おあしたいじ)

2008年4月に、Mount Sinai School of Medicine (現在のIcahn School of Medicine at Mount Sinai, http://icahn.mssm.edu/ ) にてPh.D.(博士号)を取得。 
同年6月より、メリーランド大学薬学部 http://www.pharmacy.umaryland.edu/ Computer-Aided Drug Design(CADD) Centerにてポスドク(博士研究員)として、2011年3月まで勤務。
同年4月より、国内製薬メーカーにて、新薬創出に向けた研究・技術開発に従事。
専門は、スーパーコンピュータを活用した創薬。

カガクシャ・ネットの運営には2003年より従事。2011年に副代表、2012年に代表に就任。2013年より運営スタッフを退き、アドバイザーとして運営をサポート。
カガクシャ・ネットの著書である「理系大学院留学(アルク社)」の主要著者の一人。
書籍についてはこちら >> http://www.kagakusha.net/book

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カガクシャ・ネットワーク http://kagakusha.net/
発行責任者: 武田 祐史
編集責任者: 日置 壮一郎
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Image courtesy of Stuart Miles at FreeDigitalPhotos.net

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