2015年5月24日日曜日

企業で求められる力と留学 第1回:コミュニケーション能力

今月から、カガクシャネット・メルマガの新しい連載がはじまります。

今回のメルマガのテーマは「企業で求められる力と留学」です。 学位取得後、さらに活躍するために求められている力とは、どんな力なのでしょうか? 留学経験はその力とどのように結びつけることができるのでしょうか?カガクシャネット副代表の高橋大介さんによる今回の連載では、大学生活では気づきにくい企業で必要な力について、3回にわたって考えていきます。

第1回の今回は「コミュニケーション能力」です。




皆さん、留学後の進路について考えたことはありますでしょうか? アカデミアに進む方、企業に就職する方、または起業する方など、様々な選択肢があると思います。それぞれの進路で、どのような能力が必要とされるのでしょうか?

私はカガクシャ・ネット副代表の高橋大介と申します。2008年にアラバマ大学大学院の航空宇宙工学で修士課程を終了後、日本の機械メーカーに勤務しております。今までの社会人経験を基に、企業で求められる能力について、数回に分けて紹介したいと思います。(本文は、個人の経験に基づくもので、全ての場合に該当しない可能性もあります。)

私は大学院時代に、少数のメンバーと非破壊検査の開発をしていましたが、現在は、数百人規模で製品開発を行う機械メーカーに勤務しています。このような製造業の場合は、研究・開発・設計・生産技術などの技術系スタッフ部門の他、実際にものづくりを行っている工場の現場部門を持っており、1つの製品づくりに沢山の人が携わっています。

その中で、技術要求や納期などのお客様の要求、また、予期せぬトラブルや技術変更等に対応しながら製品開発を進めていくには、お客様・協力会社・上司・同僚など、一緒に仕事をする人達とのコミュニケーションが欠かせません。今回の第1回目では、コミュニケーション能力について紹介します。その中でも、私は特に、以下の2つのコミュニケーション能力が大切だと思います。

 1.相手を理解するコミュニケーション能力
 2.相手に伝えるコミュニケーション能力


1.相手を理解するコミュニケーション能力

グローバル化が進む今日、海外にお客様がいることや、海外の企業と共同で製品開発を行う企業が増えてきています。日本人とのコミュニケーションも大切ですが、同時に、国籍・文化・習慣が異なる海外の人とコミュニケーションを取り、円滑に業務を進めることが求められています。このような状況下で、相手を理解するコミュニケーション能力が必要になってきます。特に、海外の企業と仕事をする際は、自分の会社では当たり前だと思っていたことが、相手にとっては当たり前でない場合があり、”常識≠常識, 常識=非常識”を経験することもあるでしょう。”あうんの呼吸”とは日本的な考え方・習慣であり、国籍・文化・習慣が異なる外国人とスムーズに仕事を進めるためには、まず相手を理解するところから始めなければなりません。

例えば、私は海外出張が多く、海外の技術者や作業者と一緒に仕事をする機会が多いです。出張先で会う日本人と話すときに、”外国人はテキトウで、仕事が遅いんだよ。”などと言う人もいますが、決してそれが全て正しい訳ではありません。多少とりかかりが遅い時もありますが、依頼した仕事はしっかりやってくれます。両社のルールが異なり、その作業をするために、こちらが想像するより多くのプロセスを踏まなければならないということもあります。そのような時に必要なのが、相手を理解するためのコミュニケーション能力です。上記の例の場合、事前に相手の会社のルールを理解していれば、予め時間に余裕を持って依頼することも出来たと思います。相手の立場や状況を理解しようとする姿勢が大切です。相手を理解することで、こちらがどのように対応するべきかが分かり、スムーズに仕事を進められるようになり、両社のプロジェクト進行に貢献できるでしょう。


2. 相手に伝えるコミュニケーション能力

次に、相手を理解するコミュニケーション能力と同等に大切なのが、相手に伝えるコミュニケーション能力です。実際に私が働いている業界では、技術協力や、1社での開発費用及びリスクを分散するために、国際共同開発が主流です。ある製品をある期限までに開発し、お客様に提供するという目標のもと、複数の会社が協力し、製品開発に臨んでいます。しかし、数ヶ国の企業と一緒に製品開発を進めていく中で、こちらが依頼した事が、要望通りに進まないことがあります。例えば、製品の試験を行う際に使用するシステムが、両社で異なっている場合、いくら日本で使用しているシステムの常識に基づいて、相手の会社に”Aをして”と依頼しても、依頼内容を理解してもらえず、”うちの会社でAは出来ない。それは不可能だ。”と言われる場合もあります。本当に出来ない場合もありますが、伝え方を変えることで、相手に理解してもらえる場合もあります。

そこで必要になるのが、相手に伝えるコミュニケーション能力です。”A=A”とでしか考えず、”Aをお願いします。”と言い続けても伝わらないのです。一方、伝え方を工夫し、仮に”A=B+C”として、”BとCをお願いします。”の様に、いくつかの項目に噛み砕いて依頼すると伝わる場合もあります。こちらが要求することを、相手が理解出来るように依頼することが大切です。そうすることで、こちらの要求が相手にも伝わり、仕事がスムーズに進むことでしょう。

上記で述べた2つのコミュニケーション能力は、グローバル化が進む現代の社会で非常に大切な能力の1つです。留学している方は、日本人以外の方と接する機会が多いため、生活を通し、自然とこのような能力が身につけられるかもしれません。授業や研究で忙しく、なかなか落ち着いで考える時間がないかもしれませんが、改めて今まで留学生活を振り返ることで、留学生の強みや、今後の新たな目標などが見えてくるのではないでしょうか。

日本から飛び出すことで、様々な国の人、様々な習慣の人、様々な考えの人と触れ合う機会が格段に増えます。言語や専門分野の修得のみならず、このような環境で生活できるということも留学の1つのメリットだと思います。これから留学を目指す方にとっても、参考になれば幸いです。

第2回へ続く)


連載:「企業で求められる力と留学」

第1回コミュニケーション能力
第2回柔軟な対応能力
第3回チャレンジ精神


著者略歴:

高橋大介 (たかはしだいすけ)

2002年3月に高校卒業後、渡米。米州立アラバマ大学(University of Alabama, Tuscaloosa) 付属の英語学校で 9ヶ月間の語学研修を経て、2003年1月にアラバマ大学に入学。専攻は航空宇宙工学。2007年5月に学部卒業、翌年の5月に同専攻で修士課程修了。研究内容は発光塗料を用いた非破壊検査(Luminescent Photoelastic Coating)の研究・開発。2008年10月より、国内機械メーカーにて航空機エンジンの整備/開発に従事。

━━━━━━━━━━━━━━━━━
カガクシャ・ネットワーク http://kagakusha.net/
発行責任者: 武田 祐史
編集責任者: 日置 壮一郎
━━━━━━━━━━━━━━━━━
Image courtesy of Ambro at FreeDigitalPhotos.net

にほんブログ村 海外生活ブログ 研究留学へ にほんブログ村 海外生活ブログ 海外留学(アメリカ・カナダ)へ にほんブログ村 海外生活ブログ 海外留学(ヨーロッパ)へ