2015年9月27日日曜日

企業と大学での研究開発 第2回:研究環境とマネジメント

今月のメルマガは小葦泰治さんによる「企業と大学での研究開発」の第2回です(第1回はこちら)。前回は目的や対象といった研究の枠組みについて比較検討しましたが、今回は実際に研究を遂行する上で欠かせない、研究環境とマネジメントについてです。目的が違えば、やはり研究環境も大きく異なるようです。



[ 規模・環境の違い ]

それでは、規模と環境の違いについても、大学、企業の順で、見ていきたいと思います。大学の場合、割と個人や小規模なグループで研究を行い、その中から得られた成果を発表するというケースが全体的に見ると依然として多いような印象を持っています。ただし、近年ではサイエンスの発展に伴って、新たな形の成果創出を目指す動きも見られます。即ち、従来からある個別的な深堀研究に加えて、相互の専門性・強みを生かした共同研究や、さらに発展させたネットワーク型の大型研究プロジェクト等、規模やスタイルが多様化してきている印象があります。研究設備を含む研究環境としては、大学の場合、一部の恵まれた研究室・研究グループを除き、企業に比べると劣るのでは、という印象があります。

一方、企業の場合は、一人の力だけで製品を開発するのは困難なため、個人で完結するような研究を行うことは稀だと思います。逆に、製品開発に必要な異なる専門性をバックグランドとして持ったメンバーで、チームを作り、研究に取り組むことがほとんどとなります。そのため、自身の専門分野や専門的な取り組みを専門外のメンバーに対し、正しく理解してもらえるように分かりやすく説明し、相手の専門分野や専門的な取り組みを正しく理解するために、高度なコミュニケーション能力が求められることになります。また、企業研究で特徴的なのが、求められるデータの質や量、期限がプロジェクトにより大きく異なる点です。このため、個々の研究者には、柔軟な対応能力が求められます。

企業にとっては、研究開発により新製品を創出し、販売し、利益を得ることが重要です。新製品の創出を時間的・労力的・コスト的に効率化するため、また、競合他社との厳しい研究開発競争に打ち勝つためにも、研究チームには、かなり恵まれた研究環境が与えられているという印象を持っています。さらに近年では、産・官・学の連携も進められており、一定の費用を支払うことで、官・学の持つ先進的な研究インフラに企業がアクセスすることも可能になってきています。また、研究開発のより一層の効率化に向け、オープンイノベーションの推進という形で、実力派の教授や先生との共同研究機会が増えて来ている傾向があるように思います。

[ マネージメントの違い ]

最後に、マネージメントの違いについても、大学、企業の順で、見ていきたいと思います。大学の場合、人材面では個々のラボ(研究室)ごとに、研究推進に必要な人材をリクルートするという形式が基本だと思います。研究資金の面では、自ら競争的研究資金等に応募する等して、獲得する必要があるように思います。大学で研究室を運営している日本国内外の教授等に話を伺ったところ、近年の国の財政状況の厳しさが影響し、以前に比べ、研究資金の獲得が困難になってきており、研究室の運営が大変になってきていると聞いています。しかし、研究室ごとに独立したマネージメントを採用する利点は、自分のアイデアを基に研究室の在り方(研究テーマ、規模、研究スタイル等)も含めて、自らの力で自由に作り上げていくことができる点にあると思います。

一方、企業の場合、役割分担が明確なため、人材面では、人事部や研究開発に特化した人事関係者が、様々なルート(新卒採用、キャリア採用等)を通じて必要な人材をリクルートし、必要な部署に配置します。そのため、研究スタッフの人材リクルートに割く労力は最小限となっています。また、研究をサポートしてくださる専門のスタッフもおり、専門性も高いため、研究スタッフは研究に専念することができます。さらに、研究開発においても、外部提携や共同研究・共同開発なども含め、ある種、お金で時間を買うという選択肢を持っている印象があります。

これらの人材面、資金面の潤沢さに加えて企業において特徴的だと思うのが、機密事項に関する情報管理を徹底している点です。自社にしかない、製品・技術開発に直結する可能性があるサイエンス的な知見は、特許等の知的財産となる可能性を秘めており、競争に勝つためにもとても大切に取り扱う必要があるからです。それに伴い、研究成果の社外発表にも一定の制限があります。社外発表が可能になるのは、特許成立後や製品・技術開発完了後の宣伝を兼ねた形になることが多い印象があります。企業には、研究開発職以外にも多種多様な仕事があるため、その人の適性や会社の戦略・運営上の理由等により、研究開発に携わることができる期間は人さまざまで、希望通りにいつまでも研究開発に従事できないこともある、という印象です。

おわりに

このように、いくつかの項目に分けて、大学、企業での研究開発の比較を行いましたが、それぞれに違った良さがあると思います。結局のところ、留学し学位を取得した後の進路として研究開発職への就職を希望される場合は、それぞれの違いを把握した上で、適性や希望も踏まえて、選ばれるのが良いように思います。科学技術は無限の可能性を秘めており、科学技術により社会的な課題・問題の解決に貢献することが、科学者・技術者等の研究開発に従事する者としての使命だと、個人的には考えております。昨今、産・官・学による共同研究機会も増えてきており、どちらに就職したとしても、一緒に研究を行うこともあると思います。また、国内市場の成熟、企業のグローバル化等の要因により、国際共同研究や国際共同開発も増えてきている傾向にあります。そのため、留学中に培った専門性や語学力に加え、国際感覚、異文化や多様性を感受できる包容力、環境変化への対応能力、さらに世界に広がる人的ネットワークが、今後ますます活かせる時代になっていくと思います。

現在留学中の方々には、これらの事を意識して、学位取得後のキャリア構築を成功させ、社会貢献されることを、これから留学される方々には、自身の未来を切り開けるような、有意義な留学生活が送れることを、切に願っております。

最後になりましたが、置かれている境遇等は異なるかもしれませんが、皆様の能力を最大限生かすことができる環境で、研究開発や仕事に取り組まれ、将来的に、社会の役に立つ成果が生まれることを、切に期待しつつ、本稿を締めくくりたいと思います。


著者略歴:

 小葦泰治 (おあしたいじ)

 2008年4月に、Mount Sinai School of Medicine (現在のIcahn School of
 Medicine at Mount Sinai, http://icahn.mssm.edu/ ) にてPh.D.(博士号)を
 取得。 同年6月より、メリーランド大学薬学部 http://www.pharmacy.umaryland.edu/
 Computer-Aided Drug Design(CADD) Centerにてポスドク(博士研究員)として、
 2011年3月まで勤務。
 同年4月より、国内製薬メーカーにて、新薬創出に向けた研究・技術開発に従事。
 専門は、スーパーコンピュータを活用した創薬。

 カガクシャ・ネットの運営には2003年より従事。2011年に副代表、2012年に代表に就任。
 2013年より運営スタッフを退き、アドバイザーとして運営をサポート。
 カガクシャ・ネットの著書である「理系大学院留学(アルク社)」の主要著者の一人。
 書籍についてはこちら >> http://www.kagakusha.net/book

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発行責任者: 武田 祐史
編集責任者: 日置 壮一郎
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2015年8月29日土曜日

カガクシャ・ネットを利用したネットワーキングのススメ

武田祐史

カガクシャ・ネット代表

タフツ大学医療工学科博士課程在学中


留学の実現や海外での就職活動においてコネは重要な役割を果たすと言われています.コネを生かした留学のよくある例としては,日本で所属していた研究室の先生の紹介や共同研究先に留学する,というところでしょうか.私の場合はそのようなツテがなく,現在の研究室に受け入れていただいたきっかけは,現地訪問によって得たコネによるものでした.2010年秋,出願準備中だった私は研究室訪問のためにボストンに渡りましたが,訪問しても大学院生として受け入れることには消極的な返事をもらったり,そもそも訪問に関するメールを送っても返事がもらえなかったりと,けっして成功とは言えない有様でした.

そんなボストン滞在中,MIT日本人会のウェブサイトに当時あった留学相談のメールフォームに苦し紛れに投稿したところ,ある日本人研究者の方(その方とはもちろん面識はない)が快く相談に乗ってくださりました.研究室を見せてくださったあとは近くのスターバックスにて留学中の様子や研究生活についてお話を聞かせてもらいました.たいした質問もできなかった記憶がありますが,その際に「タフツ大学で知り合いがラボを最近立ち上げたんだけど,紹介しようか?」というありがたい申し出をいただきました.その先生のことを渡米前はまったく存じ上げなかったのですが,この紹介を機にコンタクトを取り,研究室訪問・教員との面談が実現しました.そして,その研究室でResearch Assistantとして働くことになり現在に至ります.

このように,何もないところから生まれたコネがきっかけとなって,留学先が決まることになりました.自分の体験談をもとに過度に一般化した話をするのもどうかと思いますが,主体的に動くことは留学経験を成功に近づける秘訣ではないでしょうか.留学相談を受けた際に「コネがないのだけど,どうしたらよいか?」といった質問をよく受けますが,コネがないなら作ればいいじゃないかと思います.コネは留学先や就職先を直接得るためだけではなく,進路に関するアドバイスや情報を得るという観点からも非常に大切です.

ネットワーキングつまり主体的なコネ作りにはカガクシャ・ネットの利用が役に立つはずです.カガクシャ・ネットは,メーリングリストとして始まった当初から,実名でのコミュニケーションを基本としてきました.これは,ディスカッションの質を担保するということと同時に,参加者間のネットワーキングにつなげるねらいがあるからです.メーリングリストからLinkedInへ移行したことで,さらにメンバー間のネットワーキングには利用しやすい環境になったと思います.たとえば,Discussionページに投稿することで,進路や留学準備,キャリアについても自由に相談することができます.

さらにLinkedInグループのメンバーリストを通じて,カガクシャ・ネットメンバーに直接コンタクトをとることも可能です.
以下に方法を解説します.
  1. LinkedInのグループページに行きます.
  2. スクリーン上部にある“member”と表示されている横にある参加人数 (たとえば“203 members”) をクリックします.
  3. メンバー一覧が表示されますので,そこでコンタクトを取りたい人を検索します.大学名,都市名などでも検索可能です.
  4. コンタクトを取りたい方の名前の横に表示されている“send message.”をクリックすることでメッセージを直接送ることができます.

ただし,この方法で1か月に送れるメッセージ数には制限があるそうです.このような形でコンタクトをとることに抵抗を覚える方も少なくないかもしれませんが,アメリカの大学のキャリアサポートセンターなども上述したLinkedInグループを利用したネットワーキングを推奨しています.

また,カガクシャ・ネットはオンライン座談会,留学・キャリア相談会などのイベントを開催しています.これらのオンラインイベントはSkypeなどのツールを利用したface-to-faceに近いディスカッションが可能ですので,参加を通じて,情報収集やネットワークを広げていくことも可能です.

以上のように,カガクシャ・ネットは今後のキャリアを築く助けとなる環境を提供しています.カガクシャ・ネットメンバーひとりひとりが積極的にこれらのリソースを活用することで,自らのキャリアの目標の実現に近づくことでしょう.



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2015年8月23日日曜日

企業と大学での研究開発 第1回:目的と対象・実施期間

過去3回のメルマガでは、企業で求められる3つの能力について、高橋大介さんにご紹介いただきました。今回と次回のメルマガでは、こうした力をどのように生かすことができるのか、実際の研究開発の特徴について小葦泰治さんに詳しく紹介していただきます。



皆様は、留学し学位取得後の進路として、どのような業種・職種に興味をお持ちでしょうか?実に様々なキャリアパスがあると思いますが、今回は、その中でも、大学/企業での研究開発職とはどのようなものなのかについて、その違いも含めて、紹介させていただきたいと思います。
私は、カガクシャ・ネットアドバイザーの小葦泰治と申します。2008年に、Mount Sinai School of Medicine (現在の Icahn School of Medicine at Mount Sinai, http://icahn.mssm.edu/ )にてPh.D.(博士号)を取得後、メリーランド大学薬学部 http://www.pharmacy.umaryland.edu/ Computer-Aided Drug Design(CADD) Centerにてポスドク(博士研究員)として勤務し、現在は日本の製薬会社に勤務しております。これまで大学/企業において、自身が研究開発に従事した経験と同じような経験のある方々から伺った内容をもとに、大学/企業での研究開発の共通点、違いの順で、紹介したいと思います。(本文はあくまでも、個人的な経験・意見に基づくものであり、全ての場合に該当しない可能性もありますので、あらかじめご了承ください。)

大学/企業での研究開発で共通しているもの
  1. サイエンスがベースにある
  2. 最先端の情報にアクセスできる環境がある
  3. 使用している研究機材

研究開発という職種において、大学/企業という組織の違いはあるにせよ、サイエンスがベースにあるという点は共通していると思います。また、最先端の情報にアクセスできる環境があることも共通していると思います。さらに、優劣はあると思いますが、使用している研究機材も、基本的に同じという印象を持っています。それでは、一体何が違うのでしょうか?以下のような違いがあるように思います。 大学と企業それぞれについて、ゴール・やりがい、研究開発対象・実施期間、規模・環境、マネージメントという項目別に、私なりに違いを整理してみました。

大学/企業での研究開発の違い

大学:

 ゴール・やりがい
  1. 論文発表、後進人材の教育・育成がゴール。
  2. 学問の発展を通じて、社会に貢献できる点で、やりがいを感じられる。
 研究開発対象・実施期間
  1. 真実の追究も重要視されるので、純粋な基礎研究の実施も可能。
  2. 個人のアイデアがベースとなり、プロジェクトが立ち上がる。
  3. 実施期間が比較的長い。
 規模・環境
  1. 全体的に見た場合、個人・小規模グループでの取り組みが多い。
  2. 中には、お互いの強み・専門性を生かした共同研究、その発展型の大型プロジェクトもある。
  3. 研究環境は企業と比べて劣るという印象がある。
 マネージメント
  1. 研究メンバーを、ラボ(研究室)ごとにリクルートする必要がある。
  2. 研究資金の獲得、ラボの運営が大変。

企業:
 ゴール・やりがい
  1. 製品開発がゴール。製品開発につながらない研究は評価されにくい。
  2. 論文はあまり出せない。
  3. 発明を伴う特許の出願が、高く評価される。
  4. 世の中に製品として出すことを意識して研究開発を進めるので、社会とのつながり、やりがいを感じることができる。
 研究開発対象・実施期間
  1. 将来的に何の役に立つのか研究開始時には明確でない、ピュアな基礎研究に取り組むのは難しい。
  2. 会社の戦略・方針に沿う形で、プロジェクトが立ち上がる。
  3. 他社との競争の意識が高い。他社製品との差別化、自社製品の優位性創出、独自性・新規性を意識し、研究開発を進める。(チャレンジ精神)
  4. 社外の動向により、プロジェクトが急に中止になることもある。
 規模・環境 
  1. 個人で研究の全てを行うことはほぼ無く、バックグランドの異なるメンバーでチームを作り、取り組むことがほとんど。
  2. 専門性を持ち寄りプロジェクトを進めるため、専門外のメンバーにもわかりやすい説明・コミュニケーション能力が求められる。
  3. プロジェクトにより、求められる貢献(質・量)が変わる。(柔軟な対応能力)
  4. かなり恵まれた研究環境が提供される。
  5. 実力派の教授や先生との共同研究機会も多い。
 マネージメント
  1. 人事部・人事関係者が、必要な人材をリクルートし、必要な部署に配置する。
  2. 研究をサポートして下さるスタッフのレベルが高い。
  3. お金で時間を買うという選択肢 を 持っている印象がある。
  4. 機密事項に関する情報管理を徹底している。
  5. 成果の社外発表に制限がある。
  6. 研究開発に携われる期間は、人様々。

それでは、各項目を比較しながら、見ていきたいと思います。

[ ゴール・やりがいの違い ]

大学と企業の研究開発で最も異なっているのは、そのゴールであるように思います。大学の場合は、学問の発展を通じて社会に貢献するという意識が強いため、論文発表がゴールの一つと位置づけられているように思います。また、後進人材の教育・育成も重要なゴールであるように感じております。そして、それらを達成することで、やりがいを感じられるのではないかと思います。

一方、企業の場合は、企業活動を通じた社会貢献を主眼におきながら、新製品を開発し、市場に投入し、利益を確保し、更なる新製品を研究開発するというサイクルを回す必要があります。そのため、企業の研究開発では、製品開発がゴールとして位置づけられていると思います。これにより、論文発表できる機会は限られるのですが、発明の特許化が可能であり、研究開発成果の重要な評価対象 となります。また、世の中のニーズに応えたり、社会的な課題・問題解決を目指して新製品の開発を行うため、社会とのつながりや、やりがいを感じることができると思います。

このように、大学と企業では、研究開発におけるゴールが異なるために、そこへ至る取り組み方が異なるという印象を持っています。

[ 研究開発対象・実施期間の違い ]

大学の場合、学問の発展につながるような真実の追求は、研究を進める上で非常に重要な要素となるため、純粋な基礎研究も実施しやすいという印象があります。また、個々の研究者の興味の対象やアイデアを基に研究プロジェクトが立ち上がり、実施期間が比較的長い点も特徴ではないでしょうか。 一方、企業の場合は、製品開発につながるような研究を行う必要があります。そのため、将来的に何の役に立つか明確でない、すなわち出口が明確ではない研究は、開始時に上層部からの納得を得るのが容易ではないため、ピュアな基礎研究に取り組むのは難しいという印象を持っています。

また、企業ではあらかじめ策定した製品開発の方針や戦略に基づいて研究開発を行うため、自社の方針や戦略に沿ったプロジェクトが立ち上がる場合が多いと思います。研究開発対象の選定においても、常に他社との競争を意識する必要があります。そのため、対象が同じ・類似の場合は、異なる手法を用いることで、他社製品との差別化を図ったり、自社製品の優位性を創出したりします。その他、異なる対象に取り組む等、独自性や新規性を意識して、研究開発を進めることが多い印象があります。この過程には、幾多の困難があることが多く、困難克服に向け、相当なチャレンジ精神が求められます。

研究開発の実施期間に関しては、社外の動向に大きく左右されます。タイムリーに製品化して市場投入が難しい場合や、ビジネスとして成立する見込みが立たない場合は、プロジェクトの急な中止もありえます。一方で、自社の強みが生かせて他社と競争になりにくいプロジェクトは、じっくり時間をかけて取り組むこともあります。このため、実施期間はプロジェクトごとに大きく異なるという印象を持っています。

次回に続く)


著者略歴:

小葦泰治 (おあしたいじ)

2008年4月に、Mount Sinai School of Medicine (現在のIcahn School of Medicine at Mount Sinai, http://icahn.mssm.edu/ ) にてPh.D.(博士号)を取得。 
同年6月より、メリーランド大学薬学部 http://www.pharmacy.umaryland.edu/ Computer-Aided Drug Design(CADD) Centerにてポスドク(博士研究員)として、2011年3月まで勤務。
同年4月より、国内製薬メーカーにて、新薬創出に向けた研究・技術開発に従事。
専門は、スーパーコンピュータを活用した創薬。

カガクシャ・ネットの運営には2003年より従事。2011年に副代表、2012年に代表に就任。2013年より運営スタッフを退き、アドバイザーとして運営をサポート。
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2015年7月26日日曜日

企業で求められる力と留学 第3回:チャレンジ精神

連載「企業で求められる力と留学」の第3回(最終回)です。第1回第2回では実務上の力について考えてきましたが、最終回の今回は仕事に向き合う姿勢やキャリア形成に大きな役割を果たす、チャレンジ精神について掘り下げていきます。



企業で求められる能力として、私の経験を基に、第1回目はコミュニケーション能力、第2回目は柔軟な対応能力について紹介しました。第3回目は、物事を前向きに捉え行動するというチャンレンジ精神の大切さについて紹介したいと思います。留学中の皆さんにとっては、日本を離れ、現地で生活をする事が既に大きなチャレンジだと思います。留学準備中の皆さんにとっては、今までの仕事や日本での生活を離れ、留学を決断したことがそれにあたると思います。そのほか、就職、転職、子育て、そして身の回りの小さな事も、それらは新しいことへの挑戦だと思います。もちろん、企業で働く上でも、チャレンジ精神は非常に大切であり、重要視される能力の一つです。そしてそれは、個人としてのみならず、企業としても非常に大切です。私が今までの社会人経験で、物事を前向きに捉え行動することの重要性を感じた3つの具体例を紹介したいと思います。(本文は、個人の経験に基づくもので、全ての場合または業種に該当しない可能性もあります。)
  1. 与えられた困難な状況下でのチャレンジ精神
  2. 成長のために積極的に機会を取りに行くチャレンジ精神
  3. 巡ってきた機会を最大限に活かすチャレンジ精神

1.与えられた困難な状況下でのチャレンジ精神 

ある日突然、私は自社で開発しているある製品の試験工程の担当を任されました。それまでは、同じグループの他の人が担当していましたが、諸事情により、急遽担当が変更になり、私が製品の試験を取りまとめることになりました。具体的には、設計部門からの要求を満たす生産工程の構築、生産に必要な試験設備の準備、そして、試験時における現場部門への作業指示や試験の取りまとめです。試験準備に必要な事や、試験時に発生するトラブルや質問が全て私のところに上がってくるという状況です。それを、設計部門と相談・調整し、お客様の要求や納期に間に合うよう、試験を進めていかなければなりません。

内示を受けたのが、開発試験が始まる1ヶ月ほど前。試験の直前ということもあり、我々の部門から発行が必要な書類は既に作成済みかと思いましたが、1部も作成されていない状況でした。当時、私は試験をする製品を見たこともなく、試験準備の作業内容も想像がつかなかったので、上司に依頼し出張し、製品を見せてもらうことになりました。この時点で、完全にマイナスからのスタートでした。しかしながら、お客様への納期は決まっており、そこから逆算し、試験の日程も決まっていました。開始日が決まっているので、「やるしかない」という状況でした。そこから、上司、先輩、後輩などの力を借りて、書類作成に臨みました。崖っぷちの状態から、チーム全体で何とかしようという意気込みで、休日の出勤や、夜遅くまで書類作成に臨み、無事に必要書類を発行し、試験準備や試験立会に臨みました。私にとって、試験の取りまとめというのは初めての経験でした。

作業のマニュアルはありますが、試験の遂行や、関係するトラブル対応等、私の判断や発言が関係者の作業に直接影響するという役割だったため、非常にプレッシャーがかかりました。試験期間中は、現場に誰よりも早く行き、最後に現場を去るという日々が続きました。その日に発生したトラブルは、翌日の朝までに解決するかトラブルシュートの方針を決めなければなりません。そうしないと、次の日の試験が止まってしまい、納期までに時間だけが失われてしまうのです。

試験取りまとめという非常にプレッシャーのかかる役割を初めて担当し、会社に行くのが憂鬱に感じたこともありましたが、今振り返ってみると担当させてもらえて良かったと思います。そして、目の前にある困難な状況の仕事に対して前向きに取り組むことの重要性を非常に強く感じました。自分が未経験の事や明らかに大変そうな仕事に対し、積極的に挑戦していくのです。強いチャレンジ精神を持ち、挑戦し続けることで、自分の経験値はもちろん、専門知識やリーダーシップ力も身につきます。そして何よりも、自分の自信にもつながります。今後同じような場面に直面した時も、物事を前向きに捉え行動することで、なんとか達成出来るでしょう。当時は日々の試験を何とか進めることで精一杯でしたが、試験終了後には、その苦労以上の充実感や達成感を得られました。


2.成長のために積極的に機会を取りに行くチャレンジ精神

初めの経験談では、与えられた環境下で強いチャレンジ精神を持ち、業務に臨むことの大切さについて紹介しましたが、ここでは、自分の成長のために、積極的に行動することの大切さについて紹介します。私は現在の部署に移動した3週間後、製品の開発試験を実施するために、海外へ出張になりました。上司から、「こういう仕事があるんだけど、行きたい?」と質問を受け、「はい、行きたいです!」と一つ返事をしたはいいものの、当時はどのような仕事をするのか詳細は全く把握していませんでした。しかし、その出張は、海外の同業他社がどのような試験設備を備えており、どのような環境で試験を行っているのかを身をもって経験できる絶好のチャンスでした。 

私は、移動する前の数年間、日本の生産現場で製品試験の担当をしていたので、試験に対する基礎知識はありました。日本で試験に携わる仕事をしていた時から、同業他社はどのように試験を行っているのだろうか?我々が苦労している問題などを抱えているのだろうか?など他社の状況が常々気になっていました。せっかく掴んだチャンスをここで逃してはいけない!とばかりに、業務を並行しながら、入念に出張準備を行い、出張に臨みました。 


現地入りし、試験準備の仕事にとりかかりましたが、最初のうちは、パートナー会社からの質問に対し、日本側にどのように展開すればよいのか、どこまでが私たちの会社の責任範囲なのかなど、業務の流れを把握するのに苦労しました。それらと並行し試験準備を進めるために、パートナー会社との打合せや、日本との調整、そして、パートナー会社に依頼する作業の整理などを進めました。初めての経験ということもあり、調整に戸惑うことが多々ありましたが、現地にいた同僚のサポートや上司からのアドバイスも有り、なんとか役割を果たせました。製品試験の準備や立会の過程で多くの発見があり、感心させられるところが多々ありました。パートナー会社と比較し、我々の優れている箇所や劣っている箇所も把握できました。また、試験の進め方や環境も肌で感じることができ、非常に良い経験になりました。 

この出張で良い結果を残せたことで、帰国1ヶ月後には別の出張に抜擢されました。2回目の出張では、最初の出張では経験できなかったことも経験でき、さらに実りの多い出張になりました。これも、移動直後に、機会を与えられるのを待つのではなく、失敗を恐れず自ら機会を取りにいった結果です。少し難しいことでも”やります!”と積極的にチャレンジすることで、その機会で得れるものに加え、次の機会や自分にとっての新たな発見など、その機会以上のものを得られるでしょう。そして、前向きな行動を継続することで、さらに大きなものにチャレンジ出来るようになるでしょう。

3.巡ってきた機会を最大限に活かすチャレンジ精神

最後に紹介するのは、与えられた機会を十分に生かすことです。入社数年後、生産工程の改善をするための、新たなプロジェクトが立ち上がりました。その時、上司に呼ばれ「数ヶ月後から、こういうプロジェクトを立ち上げるので、是非入ってもらい、◯◯の担当をしてもらいたいのだけど、どう?」という誘いを受けました。 当時、数年間の実務経験があり、仕事や製品の流れは把握していましたが、そのプロジェクトでは現場を動かすという任務がありました。その中の重点目標は、現場からの質問が全て私のところに上がってきて、現場に早く適格な指示を出し、製品を効率よく流すということでした。必要に応じ、事務所で執務している技術スタッフに連絡調整することもありました。しかし、私より経験が豊富で製品に熟知している現場の方に、適切な指示を迅速に出すことは簡単なことではありませんでした。私が迅速な判断をしかねたため、製品の流れが遅れてしまうということもありました。また、現場の方とコミュニケーションを良くとり、仕事に取り組まなければ、私の依頼を聞いてもらえないので、コミュニケーションには非常に気を遣いました。

現場の改善案を聞いたり、自分で現場に入り体感したり、生産性を向上するための機器を導入したり、担当の役割を何とかこなそうと必死にやっていました。初めの頃は、自分で全てをこなさなければならないという思いが強かったですが、自分一人でできることは限られ、なかなか前進しませんでした。上司とも進捗状況について報告・相談し、このままでは当初の目標値をクリアできないと感じたこともありました。そんな時に頼りになったのが現場の方でした。相談すると親身になって相談にのってくれ、一緒に改善方法を検討してくれました。その他にも、製品の状況や起こりうる特徴などを丁寧に教えてもらいました。

現場の方の助けもあり、その後は今まで以上に周りの人に協力してもらいながら、改善を進める事が出来ました。新規プロジェクトが立ち上がり、そのメンバーとして参加した事で、新規機器の導入やプロジェクトの動かし方など、今までの業務では経験出来なかった様々な事が経験できました。そして、プロジェクト開始6ヶ月ほどで効果が見える工程も出てきました。これも自分にチャンスが巡ってきた時に、失敗を恐れず受け入れる事が出来たからだを思います。前向きにチャレンジすることで、今まで経験できなかったことが、新たな機会として目の前に現れるでしょう。


今回紹介した例は、私が社会人として経験した仕事のごく一部です。これらの他にも様々な仕事があります。中には、モチベーションが他の仕事に比べ上がらない仕事もあります。しかし、どの仕事も前向きに捉え、自分なりに改善することや、その仕事におけるお客様を定義し、そのお客様のためにしっかりとした仕事をしようと思うと、つまらない仕事にも面白みが出てきます。自分がやりたい仕事を担当できるのは、ほんの数パーセントだと思います。その数パーセントの仕事を任せてもらえるようになるためには、まずは与えられた仕事に全力で臨み、実績や信頼を積み重ねる事が大切だと思います。一見難しそうな仕事でも、失敗を恐れず、どんどんチャレンジすることが大切です。成功した時は何事にも代えがたい達成感を味わえ、仮に失敗した時でも、その過程で学んだことや経験したことは次へのステップになります。

留学中は、私生活や授業・研究で思い通りに行かないことや、追い詰められることがあるかと思います。そんな時にこそ、物事に前向きに挑戦することが大切です。現在、留学を目指している方は、留学が大きなチャレンジになることでしょう。留学という素晴らしい機会を活かし、様々なものに挑戦してみてはいかがでしょうか?自分の考え方や価値観が変わり、一回りも二回りも大きく成長することでしょう。また、これは仕事以外のことにも当てはまります。チャレンジ精神を持つということは、仕事のみならず、今後の人生においても非常に大切な役割を果たします。一度きりの人生、挑戦し続けて、悔いのない人生を送りましょう!


連載:「企業で求められる力と留学」

第1回コミュニケーション能力
第2回柔軟な対応能力
第3回チャレンジ精神


著者略歴:

 高橋大介 (たかはしだいすけ)

 2002年3月に高校卒業後、渡米。米州立アラバマ大学(University of Alabama,
 Tuscaloosa) 付属の英語学校で 9ヶ月間の語学研修を経て、2003年1月にアラバマ
 大学に入学。専攻は航空宇宙工学。2007年5月に学部卒業、翌年の5月に同専攻で
 修士課程修了。研究内容は発光塗料を用いた非破壊検査(Luminescent
 Photoelastic Coating)の研究・開発。2008年10月より、国内機械メーカーにて
 航空機エンジンの整備/開発に従事。

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2015年6月28日日曜日

企業で求められる力と留学 第2回:柔軟な対応能力

新連載「企業で求められる力と留学」の第2回です。
今回は企業で求められる柔軟な対応能力について、実例をふまえて考えていきます。
留学中はこれまで常識だと思っていたことが、すっかり現地の常識とずれている、
という体験をしょっちゅうするわけですが、毎日のそんな経験が少しずつ、
将来の自分の対応能力を育んでゆくのかもしれませんね。



企業で求められる能力として、前回はコミュニケーション能力を紹介しました。第2回目の今回は、柔軟な対応能力について紹介したいと思います。対応能力と 一言で言っても、新規受注開拓、お客様からのクレーム対応、製品開発、生産工程中の不具合対応など、様々な場面に対する対応能力が存在します。その中でも 私が経験し、非常に大切だと感じた以下の対応能力について、具体例を交えながら紹介したいと思います。(本文は、個人の経験に基づくもので、全ての場合ま たは業種に該当しない可能性もあります。)
  1. 予想外のトラブルに対する対応能力
  2. 生産現場のネック工程に対する対応能力
  3. お客様との調整における対応能力

1.予想外のトラブルに対する対応能力

製品開発の過程では、予想外のトラブルが必ずと言っていいくらい発生します。そのトラブルに正面から向き合い、解決することで人は成長し、大きくなります。 トラブル発生時には、”なんで自分の担当製品が・・・”という気持ちになることもありますが、私は現状をしっかりと受け止め、前向きに対応するように心が けています。そのようなトラブル対応をしっかりと続けていくと、知らず知らずのうちに、一回りも二回りも成長していることがあります。 ここで、私が経験した製品の最終試験で発生したトラブルを紹介します。私が担当している製品は、最終試験の数日後にお客様に向け出荷するため、最終試験実 施日にはお客様に製品の出荷日をご連絡しており、輸送の手続きが整っています。最終試験では、製品の機能・性能や、組み付け状態に異常がないかなどの確認 をします。最終試験でトラブルが発生すると、試験設備の異常か製品の異常かを切り分ける必要があり、発生したトラブルに対し、トラブルシュートを実施し原 因を特定します。その後、不具合箇所の修理や部品の交換を行い、再試験を実施します。当然ですが、出荷間際の製品に問題が発生した場合、担当者には超特急 での対応が求められます。私が担当している製品には数百人規模の人が関わり、生産工程が複雑なため、トラブル発生時には次の2つの事が大切になってきま す。(1)迅速かつ的確なトラブルシュートと対策の立案、(2)関係部署への迅速な連絡と作業依頼。トラブルの中には原因特定が困難なものもあるため、そ の場合は有識者を集め会議を開催し、原因調査の方針やアクション事項を決定します。自らリーダーシップを取りながら、関係者を巻き込み、トラブルを解決 し、納期や品質に対してお客さまの要求に応えられるよう、迅速で冷静な行動が必要ですトラブル解決後には、協力してくれた方々に御礼を伝えることも大 切です。そうすることで団結力が強まり、より良い信頼関係が生まれます。

2.生産現場のネック工程に対する対応能力

トラブルに対応する能力も大切ですが、トラブルを発生しないように生産ラインの各工程を維持・改善する必要もあります。そこで、設計側と生産側が協力し改善策を検討します。ここでは2つ具体例を紹介します。

1つ目は、新しい工程を立ち上げる際に発生する問題に対する対応能力です。新しいことを始める時には、初めの頃は想定していた通りには進まない事があり、関 係者との相談・調整が多々必要になる事があります。具体的には、導入しようとしていた工程で設備が十分に整っておらず、生産部門が設計部門からの要求を実施することが出来ない場合があります。この場合、生産部門は設計部門の要求に対してただ出来ないというのではなく、例えば「10までは出来なくても6ぐらいまでは対応可能です。残りの4に対して、このような方法や提案があります。」のように、依頼された項目を全て実施出来なくても、実施不可の項目に対し代 替案を提案し、残りの4については、生産部門・設計部門がお互い納得するところまで検討し解決策を決定します。その他にも、製品に求められている機能・性能を考慮し、設計部門の要求を全て受け入れてもらうこともあります。自部門のことだけでなく、他部門の立場も理解し、全体が最適になるよう、柔軟に対応することが非常に大切です。

2つ目は、設計側の要求及び生産側の能力を考慮し、製品の機能・性能に影響を及ぼさない範囲で最適解を見つける ことです。例えば、部品の加工条件、計測時のサンプリング周波数、または、各部品に要求されている制限値に対してです。製品の開発時には、設計からの要求 が厳しい物もありますが、その後、多くの量産品を生産していくにつれて、生産した数だけの様々なデータが蓄積されます。開発初期は過去のデータが無く、厳 し目に設定していた値も、量産品のデータを基に緩和することが可能な場合があります。生産工程中での不具合を削減することで、生産工程の最適化及び製品を 出荷するまでの時間の短縮につながり、生産工程の改善になります。さらには、お客様に製品を短時間でお届けすることが可能になり、お客様へより良いサービスを提供することが出来ます。

3.お客様との調整における対応能力

上記で挙げた例のような社内での調整の他に、我々の製品やサービスを購入してくださるお客様と調整する場面も多々あります。お客様との調整の場合は、お客様の製品の状況、使用環境、そして今後の使用計画等を考慮し、お客 様と作業項目を調整します。基本的には、お客様の意向に沿った作業項目になりますが、製品の安全な運用、運用上必要な機能・性能、または製品受け取り後の状況を基に、我々からお客様に提案する追加の作業項目もあります。追加作業を実施するということは、その分コストも多くかかりますので、追加作業の提案を拒むお客様もいらっしゃいます。しかし、過去のデータを基に、追加作業を実施するときのメリットと、実施しない時のデメリット、そして、デメリット発生時 の追加コストや作業時間等を説明することで納得して頂きます。このように、お客様にすんなりと受け入れて頂けない場合も、理由を説明し、納得して頂けるよ う働きかけることが必要な時もあります。サービスを提供する側としては、お客様に”要求事項プラスα”を還元したいと思っています。お客様の期待以上の サービスを提供することで、我々のサービスに付加価値を付けることが出来ると思います。このように、お客様の要求、品質、納期、コストをバランスよく考え、その場の状況に合わせた、最適な判断及び行動をすることが大切です。まさに、柔軟な対応能力といえるでしょう。


今回紹介した例は、企業で働く上でのごく一部の例ですが、このような判断、行動を継続していくことで様々な経験を積むことができ、その後のキャリアにも大いに役に立つでしょう。海外で生活をすると、特に最初の頃は全てが新しく、どう対応すべきか分からない事があります。自分で調べたり、周りの方に聞いた り、主体的に行動し解決することになると思います。日本では何の問題もなくできていた事が、海外では勝手が異なり、日本で暮らしていた時とは異なった方法で対応する必要がある場面もあるかも知れません。そのような時に、考え込んだり、悩んだりすることもあるかと思います。しかし、様々なことを経験できる良い機会だと前向きに受け止め、一つひとつ自分なりに一生懸命解決しようと積み重ねた努力こそが、就職を含め、その後の人生で非常に大きな財産となります。 言語、文化、風習が異なる異国の地で生活することで、思いもよらない様々なことが経験できると思います。留学には、言語や専門分野の修得の他に、このよう なメリットもあります。留学を検討されている方や、留学を目指す方にとっても参考になれば幸いです。

第3回へ続く)


連載:「企業で求められる力と留学」

第1回コミュニケーション能力
第2回柔軟な対応能力
第3回チャレンジ精神


著者略歴:

高橋大介 (たかはしだいすけ)

2002年3月に高校卒業後、渡米。米州立アラバマ大学(University of Alabama, Tuscaloosa) 付属の英語学校で 9ヶ月間の語学研修を経て、2003年1月にアラバマ大学に入学。専攻は航空宇宙工学。2007年5月に学部卒業、翌年の5月に同専攻で修士課程修了。研 究内容は発光塗料を用いた非破壊検査(Luminescent Photoelastic Coating)の研究・開発。2008年10月より、国内機械メーカーにて航空機エンジンの整備/開発に従事。

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発行責任者: 武田 祐史
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2015年6月10日水曜日

カガクシャ・ネット座談会 キャリア相談会のスライドを公開

カガクシャ・ネットの主催するオンライン座談会(http://www.kagakusha.net/activities/discussion)、6月6日(土曜日)のテーマは「キャリア相談」でした。

ゲストには、2013-14年にカガクシャ・ネット代表を務められた、中尾俊介さんをお迎えしました。 
中尾さんはUniversity of California, RiversideにてChemical and Environmental Engineeringの博士号を取得され、現在はClarkson UniversityにてAssistant Professorとして活躍されています。

今回は、そのキャリア相談会で中尾さんがプレゼンテーションされたスライドを公開します。

















オリジナルのpdfファイルはこちらから。


今後、オンライン座談会への参加に興味のある方,質問のある方,話してみたいテーマのある方は,ウェブサイト上からご遠慮なくスタッフにお問い合わせください。

オンライン座談会


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2015年5月24日日曜日

企業で求められる力と留学 第1回:コミュニケーション能力

今月から、カガクシャネット・メルマガの新しい連載がはじまります。

今回のメルマガのテーマは「企業で求められる力と留学」です。 学位取得後、さらに活躍するために求められている力とは、どんな力なのでしょうか? 留学経験はその力とどのように結びつけることができるのでしょうか?カガクシャネット副代表の高橋大介さんによる今回の連載では、大学生活では気づきにくい企業で必要な力について、3回にわたって考えていきます。

第1回の今回は「コミュニケーション能力」です。




皆さん、留学後の進路について考えたことはありますでしょうか? アカデミアに進む方、企業に就職する方、または起業する方など、様々な選択肢があると思います。それぞれの進路で、どのような能力が必要とされるのでしょうか?

私はカガクシャ・ネット副代表の高橋大介と申します。2008年にアラバマ大学大学院の航空宇宙工学で修士課程を終了後、日本の機械メーカーに勤務しております。今までの社会人経験を基に、企業で求められる能力について、数回に分けて紹介したいと思います。(本文は、個人の経験に基づくもので、全ての場合に該当しない可能性もあります。)

私は大学院時代に、少数のメンバーと非破壊検査の開発をしていましたが、現在は、数百人規模で製品開発を行う機械メーカーに勤務しています。このような製造業の場合は、研究・開発・設計・生産技術などの技術系スタッフ部門の他、実際にものづくりを行っている工場の現場部門を持っており、1つの製品づくりに沢山の人が携わっています。

その中で、技術要求や納期などのお客様の要求、また、予期せぬトラブルや技術変更等に対応しながら製品開発を進めていくには、お客様・協力会社・上司・同僚など、一緒に仕事をする人達とのコミュニケーションが欠かせません。今回の第1回目では、コミュニケーション能力について紹介します。その中でも、私は特に、以下の2つのコミュニケーション能力が大切だと思います。

 1.相手を理解するコミュニケーション能力
 2.相手に伝えるコミュニケーション能力


1.相手を理解するコミュニケーション能力

グローバル化が進む今日、海外にお客様がいることや、海外の企業と共同で製品開発を行う企業が増えてきています。日本人とのコミュニケーションも大切ですが、同時に、国籍・文化・習慣が異なる海外の人とコミュニケーションを取り、円滑に業務を進めることが求められています。このような状況下で、相手を理解するコミュニケーション能力が必要になってきます。特に、海外の企業と仕事をする際は、自分の会社では当たり前だと思っていたことが、相手にとっては当たり前でない場合があり、”常識≠常識, 常識=非常識”を経験することもあるでしょう。”あうんの呼吸”とは日本的な考え方・習慣であり、国籍・文化・習慣が異なる外国人とスムーズに仕事を進めるためには、まず相手を理解するところから始めなければなりません。

例えば、私は海外出張が多く、海外の技術者や作業者と一緒に仕事をする機会が多いです。出張先で会う日本人と話すときに、”外国人はテキトウで、仕事が遅いんだよ。”などと言う人もいますが、決してそれが全て正しい訳ではありません。多少とりかかりが遅い時もありますが、依頼した仕事はしっかりやってくれます。両社のルールが異なり、その作業をするために、こちらが想像するより多くのプロセスを踏まなければならないということもあります。そのような時に必要なのが、相手を理解するためのコミュニケーション能力です。上記の例の場合、事前に相手の会社のルールを理解していれば、予め時間に余裕を持って依頼することも出来たと思います。相手の立場や状況を理解しようとする姿勢が大切です。相手を理解することで、こちらがどのように対応するべきかが分かり、スムーズに仕事を進められるようになり、両社のプロジェクト進行に貢献できるでしょう。


2. 相手に伝えるコミュニケーション能力

次に、相手を理解するコミュニケーション能力と同等に大切なのが、相手に伝えるコミュニケーション能力です。実際に私が働いている業界では、技術協力や、1社での開発費用及びリスクを分散するために、国際共同開発が主流です。ある製品をある期限までに開発し、お客様に提供するという目標のもと、複数の会社が協力し、製品開発に臨んでいます。しかし、数ヶ国の企業と一緒に製品開発を進めていく中で、こちらが依頼した事が、要望通りに進まないことがあります。例えば、製品の試験を行う際に使用するシステムが、両社で異なっている場合、いくら日本で使用しているシステムの常識に基づいて、相手の会社に”Aをして”と依頼しても、依頼内容を理解してもらえず、”うちの会社でAは出来ない。それは不可能だ。”と言われる場合もあります。本当に出来ない場合もありますが、伝え方を変えることで、相手に理解してもらえる場合もあります。

そこで必要になるのが、相手に伝えるコミュニケーション能力です。”A=A”とでしか考えず、”Aをお願いします。”と言い続けても伝わらないのです。一方、伝え方を工夫し、仮に”A=B+C”として、”BとCをお願いします。”の様に、いくつかの項目に噛み砕いて依頼すると伝わる場合もあります。こちらが要求することを、相手が理解出来るように依頼することが大切です。そうすることで、こちらの要求が相手にも伝わり、仕事がスムーズに進むことでしょう。

上記で述べた2つのコミュニケーション能力は、グローバル化が進む現代の社会で非常に大切な能力の1つです。留学している方は、日本人以外の方と接する機会が多いため、生活を通し、自然とこのような能力が身につけられるかもしれません。授業や研究で忙しく、なかなか落ち着いで考える時間がないかもしれませんが、改めて今まで留学生活を振り返ることで、留学生の強みや、今後の新たな目標などが見えてくるのではないでしょうか。

日本から飛び出すことで、様々な国の人、様々な習慣の人、様々な考えの人と触れ合う機会が格段に増えます。言語や専門分野の修得のみならず、このような環境で生活できるということも留学の1つのメリットだと思います。これから留学を目指す方にとっても、参考になれば幸いです。

第2回へ続く)


連載:「企業で求められる力と留学」

第1回コミュニケーション能力
第2回柔軟な対応能力
第3回チャレンジ精神


著者略歴:

高橋大介 (たかはしだいすけ)

2002年3月に高校卒業後、渡米。米州立アラバマ大学(University of Alabama, Tuscaloosa) 付属の英語学校で 9ヶ月間の語学研修を経て、2003年1月にアラバマ大学に入学。専攻は航空宇宙工学。2007年5月に学部卒業、翌年の5月に同専攻で修士課程修了。研究内容は発光塗料を用いた非破壊検査(Luminescent Photoelastic Coating)の研究・開発。2008年10月より、国内機械メーカーにて航空機エンジンの整備/開発に従事。

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2015年1月25日日曜日

~女性分科会発~ キャリア構築と結婚・子育てに関するアンケート

いつもカガクシャ・ネット メルマガをご愛読くださり、ありがとうございます。今年もどうぞよろしくお願いいたします。

2015年第1回のメルマガでは、女性分科会が中心となって行った、キャリア構築と結婚・子育てに関するアンケートの記事をお送りします。私は大学院生ですが、時折学会のレセプションなどで、結婚していますか?なんて聞かれることがあり、研究者夫婦の家族のかたちが気になります。どうやってお互いを支えあっていけばよいのでしょうか・・・?



アンケートの背景

カガクシャ・ネットには、結婚し、子育てに追われつつも研究の分野で活躍されている女性メンバーの方が複数おられます。また、将来結婚もしたいし、子供もほしいけど、研究もしたいとがんばっている若い世代の女性のメンバーもいます。しかしながら、一生涯を通して、 研究職につく女性の割合は大学、研究機関、企業において未だに低いのが現状です。近年では、日本政府が 女性研究者を支援する取り組みを行い、女性が結婚、出産、育児と両立して研究を行うことへの理解、制度も向上してきていますが、まだまだ、キャリア構築と結婚、出産、育児などのライフイベントとの両立を難しいと感じる女性が多いのも事実です。そこで、今回のアンケートでは、女性メンバーがキャリア構築と結婚、出産、育児などのライフイベントとの両立について難しいと思った経験、また妊娠中、育児中の仕事の状況について調べました。

設問 1 (キャリア構築とライフイベントの両立)

あなたがキャリア構築する上で、結婚、出産、育児などのライフイベントとの両立が難しいと思った経験はありますか?差し支えない範囲でそのときの状況を教えてください。

最も多かった回答は、 配偶者と同居しつつ、お互いが仕事を得ることが難しいとのことでした。特に大学院やポスドク、任期付のポジション の場合、数年ごとにラボを移動することは普通であり、二人ともが同じタイミングで同じ場所に仕事を得るのは非常に困難とのことでした。また、妊娠、出産は女性にしかできず、育児においても母親の役割は大きいことからどうしても時間的な制約ができてしまう、子供をデイケアなどに預ける際の費用がかさむ、子供があまりにかわいくて仕事へのモチベーションが下がるなどといった意見もありました。

設問 2 (妊娠中、育児中の仕事の状況)

妊娠中、育児中の仕事の状況を教えてください。また受けた育休制度、国について差し支えない範囲で教えてください。

妊娠中は通常通り働いていると答えた人が多かったですが、徹夜ができなくて仕事量が減った、長時間労働はしないようにしたといったといった意見もありました。出産前は1ヶ月や1週間前から休みをとった人や、出産前日までラボで働いていたと答えた人がいました。出産後は、2~3ヶ月程度で子供を保育所に預け、パートタイムの復帰をされ、半年後には通常通りに戻られた方が多かったです。また、出産後1-2週間で、在宅で仕事を再開された方もおられました。職場復帰後は、保育所、家政婦、居住している市のサポート制度、また配偶者の助けを利用して、子育てと仕事の両立を行っているようです。

このように、出産、育児といったライフイベントと研究の両立は決して簡単ではないようですが、時間的制約があるために、以前よりも仕事をより効率的に終わらせる術を身につけたというようなポジティブな意見もありました。また、アメリカにおいては、一昔前と比べて、現在はポスドクなどのポジションであっても育休制度が充実してきたという意見もありました。

まとめ

今回のアンケートでは、女性のキャリア構築と結婚、出産、育児といったライフイベントの両立について調べましたが、全体を通して、両立は決して簡単ではないが、仕事の効率をあげる、保育所や家政婦を利用する、育児制度を利用するなど工夫をしながら、両立をしている女性メンバーの方が多数おられることが分かりました。設問1の回答で目立った、
配偶者と同居しつつお互いが満足のいく仕事を獲得することの難しさについては、アメリカでもtwo body problemとして知られており、アメリカ人、外国人問わず多くの研究者夫婦が抱えている問題の一つでもあります。アメリカでは、夫婦のうちどちらか一方が大学にファカルティーのポジションをとった場合、その配偶者のポジションも同じ大学に作るということも時にはあるようですが、配偶者も優秀であり、また配偶者の分野のdepartmentにお金がある場合のみに限られるようです。

image courtesy of franky242.
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