2014年6月8日日曜日

アカデミア永久職獲得まで(5) 対面面接のヒント

アカデミアでの永久職獲得を目指す就職活動についてお伝えする連載の第5回です。

就職活動では多くの場合、面接があります。面接は履歴書に書かれていない内容をアピールできる格好の機会ですが、限られた時間の中で効果的に自分のことについて伝えるには、どんな点に気を遣えば良いのでしょうか?面接の間だけでなく、日頃から準備できることもたくさんあるそうです。

今回は、対面面接のヒントをケンブリッジ大学にて栄養疫学を研究していらっしゃる今村文昭さんにご紹介いただきます。




面接のときに受けた質問などの内容とそれに関する考察を紹介したい。当然、研究の方法論などの特定のものもあったが、それでも一般化できるように抽出した。


12.簡潔に述べる


ケンブリッジ大学の面接の数週間前、5分間で研究内容を紹介するように指示があった。これまでの研究を短い時間に解り易くまとめるのは至難の業だったが、まずは要点を絞って原稿を作り、それから抑揚から視線、身振りなど、自分が思い描いた流れを叩き込むように常にシミュレーションをして過ごした。5分間で自己紹介をするというのは、興味を惹く内容「だけ」を効率よく伝える必要がある。思い起こせば、この点について、ケンブリッジ大学の前の面接の機会では私は失敗していた。

しかし、実際の面接では5分間で話をするということ自体が忘れ去られていた。教授たちは、履歴書などを眺め、それらに基づいて質問をしてくる形となった。これまでの経験、論文の内容や方法論の解説、どんな意義があるのか、苦労した点について問われた。想定していた殆どの事が実際に質問され、シミュレーションは予想以上に役に立った。

面接という限られた機会で、一つの研究についてのみ述べるのはもったいない。自分自身をアピールできる内容はできる限り網羅したい。しかし、面接官が自分の研究について興味をもって頷いている様子がうかがえれば、それに合わせてより深い考えを伝えようとしてしまう。面接官である教授もそこは科学者、本来の役割より科学的好奇心が勝ってしまうことがあるようだ。好奇心から更に踏み込んで質問をしてくるとなれば、なおさら話は弾んでしまうだろう。それに喜んで応じることも可能だが、特定のことばかり話すことは
冷静に考えればやはりNGである。

博士の学生でも博士研究員でも、自分の研究の醍醐味や知識、業績などをここぞとばかりに伝えたくなる事と思う。だから、どこまで述べる必要があるのか、不必要な部分がどこかを判断しておかなくてはならない。マニアックに過ぎる事を情熱的に発言したりしないように自制する事も心がけておかなくてはならないだろう。私の場合、複数の面接で重要な内容を超えて話しすぎた質疑が確かにあった。そうした経験を経て、ケンブリッジ大学での機会では要領よく答える事ができたと思う。

面接室に向かう際に、一瞬「エレベーターピッチ」(エレベーター内で会った上司に自分のことをアピールする)という言葉を思い出した。いつだったかエレベーターピッチができるように薦められた事があったが、私は実際の経験でその重要性を知った。履歴書を更新するときなど、自分の業績や経験を見直すことになる。そんな時、自分自身をどう他人に簡潔に伝えるか考え口に出してみるのがよいと思う。


13.なぜ日本ではなく英国なのか。教授職に就くならどこがよいか。


インタビューでこんな質問も受けた。私は、
 「日本は長寿国で食文化が成熟し、優れた栄養学者・疫学者も多くいる。
  そこでさらに欧米で培われている科学を日本の栄養学に還元できれば
  さらなる発展も見込める。その橋渡しができるようになれたらよい。」
というような内容を答えた。さらに英国にこだわる理由としては、
 「英国特有の栄養政策や疫学の研究体制は世界にも知れ渡っているほどなので、
  その根幹に関れたらよい。」
と伝えた。私の専門領域である栄養学や疫学ではある程度、土地柄があるためこうした答えが妥当なところだろう。特に明確な考えを用意していたわけではないが、無難な答えを述べることができたと思う。実際に“Good answer!”という言葉を教授の一人から戴いた。もっとも、前回の投稿を読んで頂いている方々には私が英国を選んだきっかけが他にあった事はバレてしまっているけれども。

有体に言ってしまえば、イギリスの栄養政策のことなどは自分の研究には全く関係がなかったのだが、世界でも主要な栄養政策くらい知っておきたいと関心を寄せていた経験が実った形だった。また私の専門領域では、メディア受けする研究が流行り、学生・研究者の数が膨れ上がり捏造の問題が生じたりしている。そんな状況の中で同時にどのように研究領域で生き残っていくのか面と向かって考えていかなくてはならない。そして大きな声では言わないものの、教授陣は研究領域の社会問題にそれぞれ一家言あるようだった。そういった問題意識が同調した瞬間が確かにあった。


14.答えの無い質問に対する対策


ケンブリッジ大学に限らず複数の面接にて予想していなかった質問が必ずあった。直接的ではなく間接的にでも、科学者としての考え方や姿勢を問うものだ。あまり耳にしてこなかったが、結果的によい対策となっていたことをここに挙げておく。一つは特定の専門誌のEditorによる問題提起、NatureやScienceなどのキャリアや研究に関する記事などに目を通しておくこと。特定の研究領域の展望や一般的な社会問題が具体例を通じて理解でき、考えも整理しやすい。日本人であれば、捏造の問題や原発の問題などは、専門領域を問わず、科学者としての考え方を見直すのによいと思う。欧米の科学雑誌に掲載されるような内容は把握しておきたい。

また面接官である教授の書いた論文などを読むことも有効な対策。研究論文はもちろんだが、教授の関係した研究論文への反駁的な論文にも目を通すと良い。特にインパクトの高い論文には、Letterとして研究者が問題点を指摘したり、応用範囲を示すような論文がほぼ必ずある。さらに近年では論文のウェブサイト上にコメントを残す機能があり、他の研究者の意見を読むことができる。こうした媒体の情報は些細な事柄であることも多いが、中には面接相手の教授をうならせるであろう内容も含まれている。雑誌のCommentaryやEditorial、所属先の大学や研究施設からの広報など、その人の考え方、展望がわかるものもまた有効。学会や国際機関が組織する委員会への寄与なども良いと思う。

意外に役に立ったのが、教授たちのインターネットの動画やラジオの記録だった。捜せばでてくるものだ。インターネットで検索してみるとよいだろう。どんな考えを持っているのかはもちろん、その人がどんな声なのか、どんな調子で話をするのか、そういった事に触れることができる。たとえば医師として社会医学に携わってきた教授などを前にすると、その教授の基礎科学についての考えを理解した上で話をするのとしないのとでは大きな違いがある。どんな分野の研究者でも、研究領域の社会問題だけではなく、基礎と応用、研究と社会との距離や関係、キャリアについての考えを持っている。その考えに前もって触れる機会、特に生の声を聴いて知る機会はとても貴重だ。

研究に勤しんでいると、研究と直接関係しない情報を得るのはなかなか難しい。それらに普段から触れておくことも重要なのだと思う。近年の研究領域と社会との関係を思うと、そういった研究とは関係ない情報に敏感になることも、近年の博士課程、博士研究員として歩む道のりにおいて教育・トレーニングの一環として要求されていることのように感じている。

次回には話しをする上でのポイント、オンライン面接について触れたい。

(第6回へ続く...)

第1回 あなたがハッピーになるため
第2回 自分を繕わずにアピールして
第3回 勢い余って話し過ぎないこと
第4回 Keep Calm and Carry On
第5回 対面面接のヒント
第6回 話し方とオンライン面接を考える

 

執筆者プロフィール


今村文昭 (Fumiaki Imamura)
Investigator Scientist
MRC Epidemiology Unit
Institute of Metabolic Science.
University of Cambridge School of Clinical Medicine

略歴
BS at 上智大学理工学部 化学科 理学士
MS at Columbia University College of Physicians and Surgeons,
  Institute of Human Nutrition
PhD at Tufts University, Friedman School of Nutrition Science and Policy,
  Nutritional Epidemiology Program
Post-doc training at Department of Epidemiology,
  Harvard School of Public Health

image courtesy of Stuart Miles / FreeDigitalPhotos.net
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発行責任者: 石井 洋平
編集責任者: 日置 壮一郎
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