2014年4月13日日曜日

アカデミア永久職獲得まで(1) あなたがハッピーになるため


新年度が始まりました!
カガクシャ・ネットメーリングリストも今週から新連載のスタートです。


6回に渡ってお届けする今度のシリーズでは、アカデミアでの永久職獲得を目指す就職活動について、英国ケンブリッジ大学で栄養疫学を研究されている今村文昭さんにご紹介いただきます。

今村さんは上智大学理工学部化学科を卒業後、米国コロンビア大学で栄養学修士、米国タフツ大学で栄養疫学博士を取得され、米国ハーバード大学でのポスドクを経て、昨年夏に英国ケンブリッジ大学にて永久職を獲得されました。

臨場感あふれるインタビューの様子から、アカデミアで仕事をする上で身につけておくべき素養まで、深く掘り下げたコメントが痛快な連載です。第一回の今回は、アカデミアでの就職活動の背景について、研究室側の視点と就活生の視点の両方からご紹介いただきます。

0.はじめに


私が留学を始めたのは2002年。10年余が過ぎて、英国ケンブリッジ大学で永久職に就くに至った。学部で化学を専攻し渡米、栄養学修士を取り、その後、栄養疫学博士を取った。そして心臓の病気を中心とする慢性疾患の疫学研究を博士研究員として行った。

専門の栄養疫学というのは栄養学とは似て非なる学問で、公衆衛生学・疫学・生物統計学を必要とする。ざっくり述べると、食べ物が人々の疾病のリスクとどれほど関係があるか検証したり、そのメカニズムの解明、そして検証方法を改善していく学問である。健康志向の高い近年、急速に必要とされているその領域で、アカデミアに残っていられることは名誉なことと感じている。

その過程で、幾度となく研究者の就職問題を見聞きしてきた。そしてジョブインタビューの山を越えるにあたり多くを学んだ。その過程より得た経験、練り出した考えなどを、同類のプロセスを踏む人の参考になればと思い寄稿させて頂いた。


1.Interviewの経験・準備


顧みれば、永久職を得るために必要な経験を、博士課程の学生、博士研究員として研究する過程で得ることができていた。こうした経験が得られるのも私が所属していたアカデミアの良い点だと思う。

博士研究員(ポストドクター・ポスドク)とは博士を取った学者が研究領域の開拓をする場である。私はそれまでの栄養疫学の知識を生かして、循環器系医学に寄与する機会をハーバード公衆衛生大学院にて得ることができた。

そこでは当時の教授の下で働きたいと考える志願者と面接する機会を持たせてもらっていた。そこで教授が私に積極的に意見を求めてきた。その研究者がグループに加入することとなれば、同僚ということになる。それを踏まえ、一緒に仕事したいと思うか、研究グループに貢献できるか判断してほしいということだった。当時、深くは考えなかったが、この経験は自分が就職活動する際に生かされた。こうした機会を与えてくださった研究室の教授には頭が下がる。

博士研究員として数名とインタビューしたところまったく問題ないと思える人は皆無だった。博士になったばかりの人など、やはり自分の博士論文のための研究に集中したのか、外部組織の人との面接に慣れないという感じだった。履歴書の読みやすさ、インタビューのときの姿勢、態度、表情、表現、そして思慮と知識の深さ、また展望の広さなどが、相手に与える印象を左右すると面接官になってみてよくわかった。とはいっても、極端にひどい例を除いては、あまり気にはならなかった。英語についても同様である。なぜなら、そういったことは場数を踏んで、経験を積めばなんとかなると自分でもわかっていたからだ。

意外だったのは、面接相手の教授や私自身の研究論文を読む人が少ないこと。面接する人がわかっているのに(スケジュールが決められる)、その人の背景、力を入れていること、現・博士研究員(私)がなぜ雇われているのかなどを陰で考察してきた気配がなかった。ハーバード大学の研究室に就職できるかどうかという人生を変える機会に臨んで、時間がなかったとは言えないはずだ。

ポストの獲得を目的に面接するときは相手が誰であれ、その人の業績に通じておくと良い。どういう人を雇っているのか、研究グループの業績や人材の幅広さ、新規性や協調性を求める姿勢などが見えてくる。面接の準備になるのはもちろん、本当にその環境が自分にあっているのか判断の材料になる。
 「論文を書いた人はどんな人なんだろう?」
そんな関心を抱いて面接を楽しみにするのがよいのでは。

多くの分野と同様、栄養疫学という学問領域も研究者が増えてきた。医学・栄養学の学位に限らず、異なる背景をもって多くの人がやってくる。研究者も研究内容も十人十色。研究技術やアプローチは多彩で、一つの定規では測れない。

そんな人材のプールから頭一つ抜け出るには、この人と仕事がしたいと思わせることが必要条件だろう。面接相手が自分よりも詳しい事柄について、自分の知識や経験の深さを主張してもあまり意味がない。それなら主張するよりも、少し知ってるけれど、もっと知りたいと述べる方がよい。自分が誰よりも熟知する事柄、長けた技術があるなら、それはそのグループに貢献できるチャンス。そんな風に考え、研究をリードしたり、新たに学んだりできる可能性を見定める。これまで面接官として、欧米人を相手にしてきたがそういった人は少なかった。

私が博士研究員になる際、ハーバード公衆衛生大学院の研究者と学生、合わせて8人と面接した。事前にスケジュールが届き、限られた時間でどんな話をするか思いを巡らせた。おそらく寡黙な日本人として写ったと思うが、疫学統計の知識と栄養学の両刀で凌いだというところだったと思う

タフツ大学の栄養疫学の博士課程では、私の論文審査に栄養学者、疫学者、統計学者がおり、研究進展に伴ってそれぞれと議論を重ねた。博士研究員になる際はその経験が生きたと思う。アメリカの学生生活では異分野の専門家と日ごろから議論を戦わせる経験を積むことができる。インタビュアーとしての経験を積む機会を含め、そんなコミュニケーション能力を練磨する機会はあればあるほどよい。


2.Job hunterの心構え


海外留学のススメという話となると頻出する内容の1つに、欧米は人的交流が盛んという事柄が挙げられる。学部で数学を学んだ人が哲学の博士課程に進んだり、歴史を学んだ人が分子生物学領域に進んだりする例がある。こういった文化は、アカデミアの就職活動においても同様であった。

2012年の春頃、ハーバード公衆衛生大学院での博士研究員としての生活も4年目に入った頃であった。4年も過ぎれば次のキャリアをデザインする頃だ。アカデミアに残るとなれば、それまでと異なる領域でポスドクになったり、同領域で講師や助教授になる選択肢があげられる。企業や公的機関となればシニアサイエンティストとなる。また永年ポスドクや無職の道も可能性として残る。

当時、所属していた研究グループの教授と、自分の将来設計の話をする機会を持った。彼の意向は、「研究予算を獲得できれば居てほしいが、他のところも捜してみてはどうか。」ということだった。「君はもう要らないよ」という旨が潜在しているのではないかというショックを抱いた。

しかし、彼は、
「就職活動は自分自身を客観的に考える良い機会だ。自分の長所や短所、長期的な目標を見定めることは絶対に良い。また今の環境がもっとも自分に相応しいのか判断できる。他の国の研究環境を見るのもいいし、自分にとってボストンにいるだけでは見えない良い環境・研究グループがあるかもしれない。それを熟慮した上で、ここに残ることも考えていいから。」
と述べてくださった。

こうした考えを誰もが持っているとは限らないが、どうやら北米でいう就職活動は、「あなたがハッピーになるため」という基本理念があるようだった。だからこそ、科学者がビジネスの世界に飛び込める。そういったキャリア選択はもちろん、起業などを後押しする基盤やシステムがある。逆に、同じ研究環境にしがみ付いたとしても、それがその人の最良のケースとは限らない。経済収入はあっても研究者としてのチャレンジ精神や誇りを損なう事も考えられる。

「就職活動」と考えるだけで精神的な負担を感じる。大学生や研究者の雇用問題がよく話題になり、「就職活動」というと就職が決まっていない困っている人の活動とも思えてしまう。精神的負担の根源は、そんな話が脳裏に焼き付いているからだろう。しかし、上記のように、就職活動はよりハッピーになるために誰もがいつでも行うものという認識がある。
ポスドク事情を冷静に考えれば、現実から目を逸らして精神的、肉体的、経済的負担を後になって抱えてしまうよりは、早くアクションを起こすに越した事はない。

欧米の就職活動とは、自分と職場(学生であれば研究室)を客観的に眺める機会。雇う人もそれには理解を示す。それはポストドクターの職を得る際でも、アカデミアやインダストリーの職についていても同様のことと思う

そんな風に考え仕事の合間などにウェブサイトを検索することなどから始めた。

(第2回へ続く...)

第1回 あなたがハッピーになるため
第2回 自分を繕わずにアピールして
第3回 勢い余って話し過ぎないこと
第4回 Keep Calm and Carry On
第5回 対面面接のヒント
第6回 話し方とオンライン面接を考える

 

 執筆者プロフィール


今村文昭 (Fumiaki Imamura)
Investigator Scientist
MRC Epidemiology Unit
Institute of Metabolic Science,
University of Cambridge School of Clinical Medicine,

略歴
BS at 上智大学理工学部 化学科 理学士
MS at Columbia University College of Physicians and Surgeons,
  Institute of Human Nutrition
PhD at Tufts University, Friedman School of Nutrition Science and Policy,
  Nutritional Epidemiology Program
Post-doc training at Department of Epidemiology,
  Harvard School of Public Health

image courtesy of stockimages / FreeDigitalPhotos.net
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発行責任者: 石井 洋平
編集責任者: 日置 壮一郎
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