2013年12月15日日曜日

アメリカ研究サバイバル(前)良いポスドク先を見つける方法

※今回は過去のメルマガから人気の記事(2009年3月 Vol.45 No.1, Part 1)をピックアップして配信しています。

前々回(アメリカ企業就職サバイバル(前) レジュメの書き方)前回(アメリカ企業就職サバイバル(後) カバーレターの書き方、インタビュー)と、青木さんがアメリカの企業でのサバイバル術に関して書いてくれましたが、今回はアカデミックバージョンです。杉井さんが、大学院修了後の、良いポスドク先を見つける方法・実際の応募方法に関して、2回に渡って執筆してくれます。今回のメルマガでは、どうやって自分に合ったポスドク先を見つけるかです。ポイントとしては、大学名ではなく研究室(の主宰者)で選ぶこと、その研究室の卒業生の進路を考慮した上で選ぶこと、また、研究室主宰者の人間性をよく知ることです。これまでにメルマガで繰り返し出てきたように、コネを最大限生かすことが成功への鍵になりそうです。では、お楽しみ下さい!

Ph.D. 取得後のキャリアを成功させるには~様々なケースから学ぶこと

アカデミアで研究を続ける場合:良いポスドク先を見つける方法 

日本でもだんだん一般的になってきましたが、一人前の研究者を目指す場合、海外では博士号取得後、さらに数年の間、「ポストドクター研究員(通称・ポスドク)」として、研究することが普通です。

現在アメリカでは、アカデミアの研究者を目指す人たちはいうまでもなく、企業の研究者や、政府の科学系業務に携わる役人、研究雑誌のエディターまでもが、「ポスドクの経験」を求められることが一般的になりました。

よくある理由としては、「研究経験を多く積んだ人材の方がより良い仕事ができるから」。・・・聞こえはいいですが、実際のところは、博士号取得者が有り余っていて、これらの職の定員(需要)に対して、供給が多すぎるというのが本当の理由です。

ですから、博士号を取る十分前から、 将来自分が何をしたいか、研究に対してどれだけの興味と情熱があるかをよく考えて、ポスドクをするかどうか決めてください。博士号に5~6年費やしたのち、さらに貴重な数年(最小1~2年から最大10年~∞年?)を費やすことになるのですから。

それでも将来設計から、海外でポスドクをして研究生活を送りたいというのなら、みなさんがよいポスドク先を見つけられるよう、私の限られた経験と見聞から、アドバイスしたいと思います。

あくまで私の分野のバイオ系、しかもアメリカでの話が中心で、他の分野や国では、状況が違うこともありうることを、あらかじめご了承ください。皆さんの知り合いに経験者がいれば、積極的にコンタクトを取って、複数の人たちから話を聞くことをおすすめします。


一般的なポスドク先の探し方

ポスドクは、大学院生のとき以上に、所属ラボへの依存度が高くなります。大学院のときはコースワークもあったし、自分のボス以外にコミッティメンバーが複数いたし、クラスメートがあちこちのラボに所属しているので、いろいろなコンタクトが持てます。

しかし、ポスドクの生活は、ラボでの研究が9割以上を占めるのが普通です。従って、そのラボのボスの人格・研究能力・経済力によって、自分の将来までもが左右されることを頭に入れておいてください。間違っても、ラボが所属している大学(研究機関)の名前で決めたりしないでください。学生の場合とは違って、「大学ランキング」は意味がありません。

いわゆる一流大学のラボでも、 研究活動が低調で大学内では蔑まされていて、明日にはどうなるか分からない研究室もあります。逆に、聞いたことがない大学・研究機関でも、ラボのボスが超一流の研究をしていて、所属機関の全面的なバックアップを受け、飛ぶ鳥落とす勢いのところもあります。

ラボを選ぶ際に、最も活用されていて手っ取り早い方法は、 Science 紙をはじめとするジャーナルが設けている求人コーナーを見ることです。また、ラボが所属している各大学機関のウェブサイトに求人が載っていることもよくあります。

しかし、それだけでは、いわゆる「人気ラボ」の求人を見つけることは困難です。そこで、次に、自分の希望分野で高インパクトのある論文を多く出している科学者、学会で高く評価されていたり賞を多くもらっている科学者などをリストアップします。

進路を踏まえたポスドク先の選び方

さて、先に「将来の進路を考えて」ポスドクを考慮する、 と言いましたが、これには別の理由もあります。それによって、どんなポスドク先を選ぶべきかが決まってくるからです。

将来アカデミアの研究者でやっていきたいのなら、出身者のほとんどがアカデミアのポストに進んでいるラボを選ぶべきです。それだけ、そのボスが熱心にアカデミア行きを後押ししているか、アカデミアでの大きなネットワークを持っているという可能性が高いです。

企業の研究者になりたいのなら、 希望する業種への就職に強いラボを選んでください。特に、ボスがベンチャー企業を経営していたり、特定企業のアドバイザーをつとめていたりしていたら、グッドサインです。前回のコラムを執筆された青木さんもおっしゃっていましたが、アメリカでは企業就職は、アカデミア就職以上に、「コネ」「ネットワーク」が有利に働きます。

* 参照:アメリカ企業就職サバイバルのためのアドバイス (前編) (後編)

余談ですが、大学院在学中の人脈も大事にしてください。後々、役に立つかもしれません。

ラボ決めで考慮すべきポイント

さて、次は希望ラボのリサーチです。繰り返しになりますが、 キャリアを考えたときに最重要なのは、そのラボの出身者がどういった進路に行っているか、ということです。

それから、ボスの人間性です。ラボヘッドの人格次第で、ラボの雰囲気もずいぶん違ってきますし、気分よく仕事ができるかどうかが左右されます。しかも、まわりからの人望が厚いボスのもとで働いてきた弟子は、就職の際に引っ張りだこになりやすく、得をします。

「研究内容が興味持てるかが一番重要だろ?」 という方もいるかもしれませんが、キャリアの観点では二の次です。それに、論文発表されていたりウェブサイトに書かれている内容は、すでに昔の話になっていて、今は新たな方向性の研究をしていたりすることがよくあります。それが現在進行形で行われたとしても、すでに所属している研究室メンバーが着手していて、新メンバーには回ってこない可能性も高いです。

研究の興味というのは、時間とともに変わっていく水物です。それに、もし大学院でやっていた研究の延長線上だったら、視野を広げるという点では、良いことではありません。特定の研究に固執する人よりも、臨機応変に考えられる人の方がより成功していくのを、多く見てきました。

自分がある程度フレキシブルであれば、優秀なボスというのは、サイエンスの分野でホットになるトピックを選別している、もしくは自ら作り出していることが多いので、こういったボスのもとで働いている限り、将来の研究内容を選ぶうえで困ることがあまりないのです。

さて、リサーチの話に戻りましょう。興味のある研究室がホームページを持っている場合、事前リサーチは楽になります。しかし、評判の良いラボでホームページを持っていないところや、あっても長いこと更新がなされておらず、古い情報しか載っていない場合も多くあります。

この場合は、何とかして「コネ」を見つけだします。「コネ」と言うと仰々しく聞こえるでしょうが、例えば友人の知り合いとか、ボスの友人とか、薄いつながりでも十分です。

現在所属している人を見つけるのがベストですが、 そうでなかったら、過去に所属した人でも良いでしょう。あと私の経験では、日本人が所属していてメールアドレスが分かる場合、メールしたら返事してくれる確率が高いです(だいたい8割くらいでしょうか)・・・同じ日本人として、協力し合えるというのは、何ともすばらしいことです。返事してくれたら、お礼のメールもお忘れな
く。

今現在の自分のボスにも、最大限アドバイスを求めてください。また、ボスの個人的なつながりを利用できれば、有力ラボへの「近道」になります。

応募に備えての準備

さて、そうやって希望研究室をリストアップしたあとは、 自分が各々のラボにどうやって「コントリビュート(貢献)」できるか考えます。そのためには、それぞれのラボの研究プロジェクトを研究し、自分の研究してきた分野の知識や実験手法を取り入れることができるかどうか、考えます。

例えば、生物医学系の研究室では、有機化学の合成をできる人、ナノテクノロジーをバイオテックに応用できる人、膨大な遺伝子データなどを解析できるバイオインフォマティシャンなどを、探している可能性があります。ここまで違う分野でなくても、他の人とはなるべく異なるバックグラウンドを持ったメンバーを、優秀なボスは求めていることが多いのです。

さて、希望ラボと自分がしたいプロジェクトが決まったところで、 次回は、アプライの手紙の書き方、インタビュー、オファーを獲得する方策について、引き続き書いていきたいと思います。


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執筆者紹介
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杉井 重紀
1996年京都大学農芸化学科卒業。卒業後、UCバークレーで聴講生(浪人生活?)を経て、ダートマス大学分子細胞生物学プログラム博士課程に在籍。2003年に博士号取得後、カリフォルニア州サンディエゴ近郊にあるソーク研究所に ポスドク研究員として勤務中。 2000年より、カガクシャネット代表をつとめる。


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編集後記
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WBCは日本が優勝して、本当に良かったです。私はサンディエゴに在住ですので、ペトコパークでの第2次ラウンドは子連れで応援しに行きました。観衆はそれほど多いとは言えなかったですが、売店ではグッズが飛ぶように売れていて、JAPANの帽子は完売。しょうがないので、Tシャツとキーホルダーを買いました。日本人観客・一人一人の真剣さが伝わった感じです。最強と言われたキューバ相手にあれだけの完璧な試合運びができたのですから、日本の強さは本物です。永遠のライバル、韓国との決戦もドラマになりました。苦しんでも、ここ一番というときに決められる、イチローのようなリーダーが、他の分野でもほしいところです。(杉井)


日本では、間もなく新学期のスタートですね。このメールマガジンも、新学期のスタートからはやや遅れますが、もう間もなく、第3弾がスタートします。先日のみなさんから頂いたアンケート結果をもとに、執筆陣で話し合ってきました。これまで以上に、みなさんのご期待に答えられればと思います。どうぞお楽しみに!(山本)


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