2017年10月2日月曜日

【2008年8月配信記事より】アメリカで「成功」する学生たちに共通するもの(前)

※今回は過去のメルマガから人気の記事(August 2008, Vol. 37, No. 1, Part 1)をピックアップして配信しています。

「留学本では教えてくれない海外大学院のホント~実際の体験から」第7回は、ダートマス大学の微生物学・免疫学で、今年5月に博士号を取得した布施さんが紹介してくれます。布施さんの研究内容、大学院留学志望動機に関しては、こちらからご覧下さい。

● 学生自らが大学院プログラムの運営に関わる(2007年6月配信)
https://goo.gl/zq4mfk

これまでのエッセイでも多くの方が書かれているように、「成功」の定義は各人によって変わってくると思います。ですので、何を基準に判断すればよいのかは、きっと人それぞれでしょう。今回の布施さんのエッセイでは、大学院生としての生産性に焦点を当て、優秀な研究歴を残すためには、英語力・過去の研究歴は果たして必須か、そしてマルチ・タスキングの重要性に触れています。

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留学本では教えてくれない海外大学院のホント~実際の体験から
アメリカで「成功」する学生たちに共通するもの(前)
布施 紳一郎
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日本は非常に高い科学技術力を持つ先進国です。それにも関わらず、日本からアメリカの大学院へ入学する学生の数は、他国からの留学生数に比べて圧倒的に少ない気がします。

留学を希望する学生が少なくないにも関わらず、日本からの留学生が多くないのにはいくつか理由があると思います。まずは出願プロセスが難しく、GRE などの試験で苦戦するケースがあります。しかし、留学を希望するにも関わらず、そもそも出願をしない学生もいるでしょう。出願プロセスを始める前に、「自分はアメリカの大学院で成功するか」という不安から、出願せずに諦めてしまう方もいるのではないでしょうか。

今回の記事では、アメリカの大学院で「成功」する学生たちに共通するものについて、述べたいと思います。もちろん「成功のレシピ」などは存在しませんし、そもそも成功が何を指すのかも曖昧ではあります。ただ、これから出願を考えている、またはこれからアメリカの大学院に留学する、という学生の方々に、私個人の経験と観察から感じたことを伝え、少しでも興味を持って頂ければ幸いです。

大学院博士課程にて「成功」を定義するのは非常に難しいことです。本人自身が幸せで成功したと思えれば、それは成功と呼べると個人的には思います。しかし、今回の記事に限って「成功」の定義を狭め、ファクルティ(先生方)や学生の間で、「彼・彼女は優秀だった」とよく口にされ、卒業までに論文を多く書いたりトップジャーナルに載せ、平均年数またはそれよりも早く博士論文を書き終え、本人たちが希望する職へ就いていった学生を指すことにします。私の所属していた大学院プログラムは、毎年25~30人入学しますが、上の定義に当てはまるのはほんの数人程度です。個人的に見ても、皆お手本にしたいな、と思う学生たちです。さて、彼らに共通する「成功の秘訣」などというものはあるのでしょうか?

●英語力と経験は重要か?
大学院にて成功する学生たちのバックグラウンドは様々です。アメリカ人であったり、ヨーロッパ、ラテンアメリカ、アジア出身であったりします。私のプログラムに限っては、アメリカ人だから有利であると感じたことは全くありません。逆に、プログラムの1/3程度しか占めないにも関わらず、目立つ学生の約半数は留学生です。むしろ、留学生は健闘していると言えるでしょう。中でも、ラテンアメリカ出身の優秀な学生たちには感心させられます。英語が比較的苦手で、GRE には苦戦するが、研究室に入れば良い仕事をする、という彼らの活躍には、我々日本人も勇気付けられるのではないでしょうか。英語力は論文やグラント(研究費申請)、フェローシップを書くのには有利に働きますが、英語力が直接大学院で成功に比例することは決してありません。

過去の経歴はどうでしょうか?アメリカの大学院に入学する学生の経歴は様々です。大学卒業後、直接進学する人もいれば、数年技官(テクニシャン)として経験を積む人、修士課程を経て入学する人、高校教師や企業で勤めてから大学院へ戻る人、臨床医などもいます。やはり過去に研究歴がある人の方が、多少有利であることは確かです。ただ、大学から直接進学してきた学生の中でも、非常に良い仕事をする人がいます。研究に経験は重要ですが、大学院博士課程の範囲で成功を収めるのには、必須条件ではないように感じます。

●マルチ・タスキング
私が所属していた大学院に限らず、必ずと言っていいほど優秀な学生やポスドク、そして PI(Principle investigator: 独立した研究者)に共通するのは、同時に平行して様々な仕事をこなす能力を有していることです。英語では、よく Multi-tasking(マルチ・タスキング)と呼びます。

ご存知の通り、アメリカの大学院で博士号を取得するためには、研究だけをやっていればよいと言うわけにはいきません。授業のレポートや試験をこなしたり、関門試験(Qualifying exam)の準備をしたり、頻繁に行われる自分の研究の発表や、ジャーナルクラブ(論文抄読会)の準備をしたりなど、研究以外にこなさなければいけないことは山ほどあります。

しかし、成功する学生は、これらの作業を実験と平行してこなしていきます。私のプログラムでは、関門試験の準備をするために研究を止める期間は、学生によって様々ですが、優秀な学生は実験をほとんど止めずに、試験の文章を書き、口答試験の準備を行っている人がほとんどです。授業に関しても同様のことが言えます。さらにその上、彼らは必ずと言っていいほど研究テーマを複数抱え、これらも同時に進めています。しかも多くの学生が家族を持っています。

一般的に言って、優秀な学生は時間を管理する能力に非常に長けてる、という印象を受けます。優秀な PI も、グラントを書きながら研究室の仕事を管理し、講演をこなし、教壇に立つなど、複数の作業を同時にこなしている人たちばかりです。実は企業就職する際に、企業側が学生に求める能力の一つとして、マルチ・タスクする能力がよく挙がり、インタビューにおいても、これに関する質問もよく出てきます。大学院に限らず、またサイエンスに限らず、マルチ・タスキングはアメリカ社会で成功する為には必要な能力であると思います。

○ 次号では、研究者としての重要な資質である、積極性・論理性に関してお送りします。ご期待下さい!



【お知らせ】
ダブルディグリープログラム説明会:兵庫県立大学大学院&カーネギーメロン大学

兵庫県立大学大学院応用情報科学研究科では、平成23年度よりカーネギーメロン大学と連携して『ダブルディグリー・プログラム』、2年間で2つの修士の学位を取得することができるカリキュラムを実施しています。

本プログラムは、情報工学系と政策経営系を組み合わせて体系化した学際的なカリキュラムで構成されています。また、給付型および貸与型の奨学金制度や留学に際しての語学学習の支援制度も充実しています。
平成30年4月入学者に対する学校説明会を開催しますので、関心のある方は、参加下さい。

【東京】10/25(水)・【大阪】10/26(木)
詳細はこちら(http://www.cmuj.jp
著者紹介

 布施 紳一郎 (ふせ しんいちろう)

 慶応義塾大学理工学部、東京大学院医科学修士、
 米国ダートマス大学院博士課程修了(2008年、免疫学)。

 大学院修了後、ボストンに拠点を置く欧米の製薬・バイオテクに特化した
 戦略コンサルティング会社勤務後、 PureTech Ventures のアソシエイトとして、
 Vedanta Biosciences(マイクロバイオーム)、Mandara Sciences(栄養)などの
 バイオテク起業に関わる。

 その後、bluebird bio社 (NASDAQ:BLUE)、事業開発部ディレクターとして、
 遺伝子治療やCART療法技術のライセンス・M&A・アカデミア提携事業の評価、交渉、
 アライアンスマネジメントを担当。現在、米国のヘルスケア分野のトップVCである
 MPM Capital社・プリンシパルとして、Switch Bio、Repare Therapeuticsなどの
 投資を担当、ボード・オブザーバー。

 早期ステージ・ベンチャーの起ち上げから、市場公開株への投資を手がける。
 さらには、日経バイオテク・コラムニストとして、米国市場のトレンドをカバー。

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発行責任者: 武田 祐史
編集責任者: 日置 壮一郎
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